大脇理智さんは、作品『skinslides』で第16回文化庁メディア芸術祭アート部門の審査委員会推薦作品に選出されました。大脇さんは現在勤めている複合文化施設の山口情報芸術センター(YCAM)でパフォーマンス作品や映像作品の制作に携わりながら、舞台鑑賞で得られる情報とダンサーが舞台上で得る情報の差に注目し、体性感覚の可能性を探る作品を発表しています。今回採択された企画『ダンスする内触覚的宇宙の開発』は、タイトルの通りダンスという動きをテーマに身体表現の可能性を広げるアート作品です。
アドバイザーを担当するのはNTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。
―初回面談は、Skypeを通じて行われました。
運動をさせる為の什器
大脇理智(以下大脇):今回制作するのは、鑑賞者が全身で体験するインスタレーション作品です。多くの身体表現が視覚のみに依存しているなか、この装置では体内への知覚・内触覚的なダンスを体験することができます。鑑賞者は作品のためにデザインされた特殊な椅子に座り、実際に運動を行うことで、目の前に広がる映像を、視覚のみならず身体全体・内触覚で体験します。
―いままで多くのパフォーマンス作品を制作してきた大脇さんは、今回はダンスの新しい可能性として体験型の展示作品を制作するとのことです。
大脇:視覚と触覚を同時に体験することで、共感覚的なものを引き出したいです。現在は作品制作の準備段階として、映像や制御システムをともに開発するプログラマー、そして身体の運動シミュレーション・ロボット工学の研究者に共同制作の打診をしています。また、並行して什器の設計なども進めていますが、本当に現在企画している形態が適切か再検討しています。
畠中実(以下畠中):大脇さんのイメージする映像は、脳内から身体を覗くような没入感のある映像ですね。やはり触覚があると効果的だと感じる。什器は運動させる為の装置になりますが、どういう運動を促すのかが重要になるでしょう。それについて、専門の人からのアドバイスは必要ですか。
大脇:やはりトレーナーが必要だと思います。そこは詰めないといけないところです。この什器ではシンプルすぎる機構よりも、筋骨格シミュレーションを活用してみたいと考えています。
畠中:身体の可変要素としての運動は自由な方がいいでしょう。視覚とともに「触覚」に変化が起きることで得られる効果、とくに錯覚するような脳内に対する効果については、もし鑑賞者が可能な限りの三次元的で自由な運動を行うことができれば、フィードバックも大きく、より効果的なのではないでしょうか。
―大脇さんの過去作品を見ながら、身体感覚の考え方について議論が交わされていきます。
中間面談までの制作目標
大脇:実はいま、勤務先の夏休み企画などの都合で、初夏はずっと忙しいのが現状です。
畠中:9月の中間面談にむけて、具体的な作り方が明確になっているということを次回の目標にしませんか。什器の形のデザインも決まっていると良いですね。
大脇:本日話をしてみて、臼をまわすような運動の、ごく簡単な機構のテストケースをまず作ってみるのが良いと思いました。什器のデザインなど、アナログ的な作業で解決できるか検討していきます。
畠中:そして触覚を与える部分の形態が見えてくるといいですね。
―繊細な作品コンセプトを共有した畠中氏との議論によって、大脇さん自身も思考を深めつつプレゼンテーションすることができたのではないでしょうか。本作に最も適した什器はどのような形状なのか、映像のディテールはどのようなものになるのか、二人が共に考えるようなやり取りが印象的でした。作品が完成したら、ぜひとも体験してみたいです。