有坂さんは、クリエイター集団「最後の手段」として、『おにわ』というタイトルの実写のコマ撮りやコラージュ、線画のアニメーションをミックスしたアニメーション作品に挑みます。前回の初回面談では具体的なイメージを提示すること、ロケ地となる古民家を決定することが課題となっていました。
有坂さんのアドバイザーを担当するのは、マンガ家のタナカカツキ氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
よりディープな作品に
―今回は「最後の手段」のメンバー3名が全員揃っての面談となりました。まず彼らが映像を担当したミュージックビデオ、宇宙人『じじい ーおわりのはじまりー』を見て作品のイメージについて確認しました。
有坂亜由夢(以下有坂):この映像は以前作ったミュージックビデオです。老人がゆっくりと死へむかう過程を示していて、身体の中に起きている分裂する細胞や新陳代謝などを追っていくような表現です。悲しくて寂しい曲だけど、死は決して突然終わるものではない。ゆっくりとなだらかに死に、そして生に移り変わる過程を示しています。
田中秀幸(以下秀幸):曲はそういうテーマの曲なんですか?
おいたまい(以下おいた):曲はおじいちゃんが死んで悲しいという曲なんですが、「わたしも生きていく」というメッセージがあります。ミュージックビデオでは、私達なりに考えてこのような表現にしました。
秀幸:バンドの人達はこの企画に対してどう言っていましたか。
おいた:「全然オッケー!」という感じでした。
有坂:この作品「じじい」が光だとすると、今回制作している作品『おにわ』は影なんです。光に対しての影、つまり裏面といいますか。民話や神話の要素に加えて実写映像も入れて、よりディープな作品にしたいと思っています。
タナカカツキ(以下カツキ):この作品より暗い作品なんですか!?
秀幸:じじいの死を光とするならば、影はいったいどうなるのでしょうね…。気になります。
ロケ地の決定
有坂:実写の撮影をするロケ地が決まりました。京都の知り合いの建物の二階なのですが、染物工場をリノベーションした物件です。ここでは立体物と平面の絵を組み合わせたセットを組んで撮影する予定で、平面の絵がコマ撮りで全部動いているようなシーンや、おじいさんの棺がきれいに解体されるシーンを撮影しようと思っています。
木幡連(以下木幡):このロケ地は、縦長の直方体なので、「棺」のメタファーとして見立てています。
有坂:新しい「生」の営みがここで行われます。あとは、女性が階段を下りて地下世界へ行くというシーンも撮る予定です。
映像を体験する
木幡:先週、僕らはスイスのアニメーションフェスティバルでVJをやったのですが、自分達が踊っている映像を流している前で実際に踊りました。そうしたらものすごく盛り上がって。
有坂:これが私達のやるべきことだと思いました。映像をただ流すのではなくて、プラス何かをすることで「体験」になると感じたんです。面白い映像は大前提としてあるのですが、決定打となる要素を加えれば、より映像もおいしくなります。
カツキ:映像作品の上映会よりも、映像と一緒に踊った方が盛り上がってしまったと。
有坂:はい。私達は「あらゆる領域を横断できる人」になりたいと思っています。小さい時からアドバイザーのお二人のつくる映像を見ていて、こんな作家になりたいと思ってやってきました。はじめて見たときは「よくわからないものを見たな」と思った反面、とても内容が詰まっていることに気づき「なんだろう」と思いました。私はジャンル分けできない映像表現をしたいです。
―有坂さんはジャンルを超えた表現についてアドバイザーに共感するところがあるようです。
作品の上映と展示
有坂:最終的には映像を見せる空間も作りたいです。理想としては洞窟の中で上映をするアイデアがあります。暗い洞窟を入っていくと音楽が聞こえてきて、やがて映像や演奏がある。ぎょっとするような、五感で感じる映像作品をつくりたい。洞窟でやるような感じのかっこいい展覧会をやりたいです。
カツキ:上映会は京都のロケ地でも良さそうですね。この環境を活かして作品の「棺の中」で上映するという形ですね。
有坂:はい、それも考えています。ちょうど来週から3週間京都での撮影に入ります。
カツキ:いよいよ本編をガンガン制作する時期に入りましたね。
秀幸:制作に関して内容的に言うことはないです。ロケ地が確定したなら心配していません。まずは面白い映像をつくることが一番大事。映像が良くないとプラスアルファがあっても仕方ないので。面白い映像をしっかり集中して作ってください。
―映像作品のイメージが具体的になってきた有坂さん。憧れの存在のアドバイザーから意見をもらい、京都での撮影に挑みます。次回の最終面談では実写映像の成果やアニメーションの進捗が報告される予定です。