大脇さんの採択された企画『ダンスする内触覚的宇宙の開発』は、ダンスという「動き」をテーマに、身体表現の可能性を広げるアート作品です。前回の初回面談では、簡単な機構のテストケースを作ることと、什器デザインの具体的な検討が課題となっていました。

大脇さんのアドバイザーを担当するのは、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

―中間面談でテストケースを体験する為に機材やモックアップを用意してきた大脇さん。今回の面談はワークショップを交えながら進みました。

視覚拡張ワークショップ

―アドバイザーの畠中氏に、大脇さんが開発に携わった視覚を拡張するデバイスを体験してもらいました。このデバイスは体験者が手元で見るディスプレイとカメラがケーブルで接続されており、様々なポジションから捉えられる体験者自身を映し出します。

大脇理智(以下大脇):このワークショプでは、カメラの位置によって様々な方向からの視覚を体感することができます。黒い布をかぶってディスプレイをみると、カメラに映し出された映像の中に入り込むような没入感を体験できます。

畠中実(以下畠中):自分が見えますね…、没入感もありますし、普段自分が見ているのとは違う視点に違和感も覚えます。

大脇:次に、黒い布を外した状態で同じ体験をしてもらいます。すると、今度は身体が拡張された第3の目があるような感覚になる。腕や足にカメラをつけると違和感があると思いますが、運動と視覚がフィットしています。

畠中:よく実感できます。

大脇:さらに僕が注目したいのは、自分自身が映像のなかに映り込む場合です。映像と自分自身との視覚的な関係が大事であり、例えば、カメラを畠中さんの斜め後ろに持って行き、畠中さんの後ろ姿が少しだけ映るようにする。このとき、カメラが畠中さんから遠くにあると、映像学的には「畠中さんがこの先をみている」という客観的な映像になります。

そこでカメラをゆっくり畠中さんに近づけていく。すると、意味がかわって、「畠中さんの視点からみえると思われる風景」という主観的な映像になります。このふたつを区別する境界はとても曖昧です。

身体の拡張を体験するための機構

―さらに大脇さんが用意した天吊り用フレームに取り付けられた説明用の機構を用いてワークショップが続きます。

大脇:今度は、映像が映るグラスを装着し、この大きなマジックハンドのような機構を使って自分が映るカメラ視点を上下左右そして前後に自由に動かしてください。このような機構の延長として、動きとリンクした視点を得ることを目指しています。

畠中:なるほど、体験してみるとよく解ります。うまい機構が作れるといいですね。自然と体験者を次の動きへ誘発するものになることが大事だと思います。

大脇:動きを誘発する為にはリアルタイムの変化が必要だと思っていますが、あまりにも自由な動きであると、プログラムや筋骨格シミュレーションを用いたリアルタイムの演算と描画が難しいので、ある程度動きを限定した機構にしようと考えています。

―そこで大脇さんが用意したのは展示什器の機構のモックアップ。運動にかかる機構の説明を行いました。

大脇:自身の動きが次の動きへと連動する為には、適度な抵抗など感覚的なフィードバックが必要だと考えています。自身の行為が、少し異なるアクションで表われるなど。このモックアップのようなクランク機構だと思いもよらない動きを作り出せるので、体験者の興味を引き出せるかもしれない。ですが、これを制作してみて感じたことは「動きが面白すぎるとそこだけが注目されて、視覚との関係性について体験者の思考に繋がってこないのではないか」という懸念です。

過去作品からのリメイク

―最後に、初回面談でも紹介された過去作品を用いて、運動にかかる機構の特徴が説明されました。

大脇:これは大学時代の卒業制作で、作品のヒントになると思って持ってきました。これはアスレチックのようでありジャグリングやヌンチャクみたいなものですが、特徴としては2点を持つことで少しだけコントローラブルになる装置です。ダンサーの動きを教育するためのものなのですが、これの良いところは、ちょっと偶然がありつつも適度にコントローラブルで次の動きを示唆することです。

畠中:この作品で「動き」を限定することは可能ですか。

大脇:可能かもしれません。ただ、このままだとちょっと機構としては危ないとも思います。

今後の課題について

畠中:視点の移動と身体の動きをどうリンクさせるかが一番の課題だと思います。自身の動きがダイナミックにフィードバックされることで、次のアクションを誘発するという、視覚的な演出が加味されているイメージだと思いますが、それに加えて動きのバリエーションを生み出せるかがチャレンジであり難しいところですね。

大脇:オキュラスのようなVRヘッドセットを活用する方法もありますが、今回は少し違うのかなと思います。リアルタイムにするのが大変です。もしかしたら、ロボットアームを購入して、激しく動かす方が早いかもしれませんし、機構の外側に複数台のカメラを固定してスイッチングして視点を移動させる方法が一番シンプルかもしれません。スケジュールから考えると、10月中に機構を決めないといけないのですが。

畠中:つまり映像をインタラクティブである機構の動きと同調されるのか、視覚的な効果に特化するかどうかということですね。イメージとしてはわかるが、実際の効果のことを考えると、機構の中よりも、機構の外側の複数台カメラで、スイッチングした方が作り込みがし易いのではないかと思いました。
身体を使ったものなので、発表の方法を今回のようにワークショップ形式にするということも考えられます。
展示作品としてならば動きはシンプルで良いと思います。プログラムによって視覚的にダイナミズムを補助すれば、この作品の当初のコンセプトである、「動きと視覚を連動させる」ことにフォーカスできるのではないでしょうか。

大脇:いまのところ、まず運動を整理しないと進まない状況なので、それを最優先に取り組みたいと思います。

―作品の見せ方、体験の仕方を深く掘り下げている大脇さんですが、次回の最終面談の際には運動を促す機構ができあがり、プログラム作成の段階入っている予定です。