大脇さんの採択された企画『ダンスする内触覚的宇宙の開発』は、ダンスという「動き」をテーマに、身体表現の可能性を広げるアート作品です。

大脇さんのアドバイザーを担当するのは、NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員の畠中実氏です。

身体と操作性の調整

―前回のワークショップを踏まえ、今回は制作中の作品を用意してきてくれた大脇さん。伸縮運動によって体験者の視点が移動する機構に加え、VRヘッドマウントディスプレイを用いての体験型の最終面談となりました。

大脇理智(以下大脇):今の段階では視点が物理的に移動するというだけでアナログな体験となっています。それも重要なのですが、少しアナログ過ぎる気がするので、もう少しデジタルな体験ができないかを同時に探っています。

畠中実(以下畠中):この機構は今、何kgくらいあるんですか?ちょっと重いので、持っていると「身体を動かす」ということに意識がいかないですよね。

大脇:これは25kgくらいあります。制作しているうちに重くなって、機構がどんどんゴツくなっているんです。腰にベルトをつけるなど、重さから手を自由にしてあげたほうがいいですよね。

畠中:視覚体験としては面白いですね。

大脇:この機構を採用した際の課題として前回から挙がっていたのが、体験者の動きが乏しく身体性が弱いという問題で、今は視覚的な体験の方が優位になってしまっているんです。この筐体が体験者の身体と視覚をつなぐ端末として認識されることが大事なのですが、ちょっと感覚が違うんですよね。

畠中:動きと視覚が連動するというよりは、自分から視点が切り離されていくという感覚がありますね。

大脇:それでもカメラを上に持っていった時、自分の後ろや床が見えると面白いので、もう少し楽に真上や真下に向けられるようにしたいと思っています。

“身体の違和感”という発見

―実際に作品を体験し、作品の根本である“ダンス”と“身体性”に話は進んでいきます。

畠中:当初、この企画の一番の根本は、いろいろなアクションが自分の踊るダンスにフィードバックされることだったと思うんですよね。

大脇:そうですよね。ただ、今でもフィードバックはあると思っているんです。やっていただくとわかると思うんですが、このカメラを通して自分の手を見て、開いたり閉じたりするとすごく違和感があるんです。

畠中:なるほど。自分の身体なんだけど自分の手でもないような変な生々しさがありますね。

大脇:その違和感が今回の最大の発見なのかなと思っています。僕が呼んでいるダンスというのは、ただフォームというよりは自身の身体性を想起させることなので、自分の身体が別のものになるような違和感が伝われば、それでダンスというもののとっかかりになると思うんです。

畠中:触覚的なフィードバックというのも企画のコンセプトにあったと思うのですが、今の作品で体験できるのはそれに近いような気がしますね。そうであれば、自分の身体も全部映って見えているほうがいいのかもしれません。

大脇:この違和感は3Dになってはじめて気づいたんです。Occulus Rift(オキュラスリフト)は没入型ヘッドマウントディスプレイなので、それも影響しているのかもしれません。

畠中:カメラと体験者から離れていく時に、ある一定の距離から違和感を覚えますね。勝手に遠くにいったり近くにいったりしても動きが意識化されるきっかけになりますね。

大脇:今後の展開としては軽量化をして、3Dの没入感を改善して、レンズを調整する。あと、もう少しカメラが体験者から離れるようにするといいのかもしれません。最初は筐体を振るとその勢いで伸びるように考えていたんですけど、複雑すぎるんですよね。やっている本人も意識をつなげるのが大変なのと、動きを感知するセンサーも相当はやく反応してくれないと意味がないので、両方課題があるんです。今はプッシュボタンを押すとアームが伸縮するようになっていますが、このままボタンでもいいのかもしれません。

作品の発展に向けて

大脇:もうひとつ、本作をどうアピールしていくかというご相談があります。本作は体験してもらわないとその面白さがわからないから、広告に使ってもらうといったアプローチは難しいと思うんです。論文にもなるようなものがベースにあるので、学術的な方向で、一度は学会ベースで発表しつつ作品を改善していき、展示していただけるようなところを探していこうと思っています。

畠中:「メディア芸術クリエイター育成支援事業」の成果として新たにプロジェクトにアプライするのはありだと思います。それで制作を継続できるのであればいいですよね。成果プレゼンテーションに関しては、最初の企画書から紆余曲折があるので、結果できたものからの応用法がプレゼンテーションできるといいと思います。こういった形になったからこその発見がはっきり見せられるといいと思うんですよね。

大脇:そうですね。

畠中:企画書では若干話が膨らみすぎているとも思いましたが、現実的なところに収まってきた気がします。あと、成果プレゼンテーションでは実演者がいたほうがいいと思います。

大脇:デモンストレーションができるといいですね。

畠中:作品をある程度段階的に作りあげているのはいいと思うのですが、いまどのステップにいるのかは明確にしておいたほうがいいと思います。

―具体的になってきた大脇さんの作品。2月の成果プレゼンテーションでどのような“身体表現の可能性”を見せてくれるか、楽しみです。