2015年2月11日(水・祝)、第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展の開催期間中でもある六本木の国立新美術館にて、7組のクリエイターと4名のアドバイザーが出席して「成果プレゼンテーション」が開催されました。その様子を3回にわたってお伝えしていきます。

「成果プレゼンテーション」は、7組のクリエイターが1組ずつ自身の作品を紹介。第一部(チーム「ストリッカー」、安野太郎、大脇理智、三原聡一郎)と第二部(ぬQ、吉野耕平、有坂亜由夢)、そしてアドバイザーを交えてのディスカッションを行う第三部の三部構成で進行しました。

ぬQ

第二部最初の発表は、ぬQさん。
ぬQさんの制作するアニメーション作品『サイシュ〜ワ』は、人間の生命の輝きを3秒に圧縮したものを、3分にクローズアップするというものです。

ぬQ:私の作品は、作品の最後で世界観が一つにつながっているのが特徴です。アニメだけではなくて、マンガ、絵画も作っていて、物語に合わせて表現方法を選んでいます。その全体でひとつの大きなストーリーの最後につながる物語が今回の作品『サイシュ〜ワ』です。人の人生には限りがあり、自分の生み出した世界やキャラクターが路頭に迷わないように、自分の芸術の結末を先に作りたいと思って作っています。

―自身の集大成ともいうべきアニメーション作品をつくるにあたり、音楽の部分で課題もあったそうですが、この支援事業を通じて音楽家の烏田晴奈さんに音楽をお願いすることで克服できたとのことです。また、ぬQさんにとって、制作環境が作品の内容に直結しており、自身をどのような環境におくのかについても重要な課題だったようです。

ぬQ:私の作品では「作品と生活の一致」がとても大事な要素です。今回は京都アトリエをはじめ、全国各地で滞在制作することによって、作品に新しい要素をたくさん加えることができました。

―自分がその時その場所で体験したことを吸収して作品に昇華させるというぬQさんは、その制作過程の紹介とともに実際に各地で出会った物事が取り入れられた作品のワンシーンをみせながら、そこで起きた出来事も語ってくれました。

『サイシュ〜ワ』のワンシーンを説明するぬQさん

<アドバイザーからのコメント>
野村辰寿氏:アニメーションは、頭の中にあるものを計画的・段階的に完成させていくという工程が主なスタイルですが、ぬQさんの話で面白いのは、即興的に自分のソースを生活の中で見つけて、それが作品に反映されていくというところです。普通なら想像もつかないようなものが、見る人にとっては意味もなく出てきますが、潜在的になんらかの感情を喚起させる要素になると思います。

タナカカツキ氏:ぬQさんは普通じゃないところが面白い。普通は作品の内容に悩むんですが、ぬQさんは制作環境にずっと悩んでいましたね。とにかく自分がつくる環境を変えたいという人はこの事業でも今までになかったです。今日もムービーをほとんど見せないで「語る」というスタイル。作家は、自分の制作スタイルも独創的であらねばならないという面がありますが、もう人を楽しませている。だから作品が楽しみだなと感じます。

―今後は沖縄、東京、そして海外でも個展が予定されているぬQさん。展覧会のたびに少しずつ『サイシュ〜ワ』を発表する予定とのことです。

吉野耕平

二番目の発表は、吉野耕平さん。
吉野さんの企画、アニメーション作品『ブタとサカナ』(現在は『FLOAT』に改題)は、緑の海と巨大なクジラ、ブタの漁師たちを描く短編アニメーション作品です。

―最初に、今日の為に編集されたという予告編が上映され、さらに完成イメージやストーリーを伝えるためのビデオコンテが上映されました。作品の補足も映像で見せることを試みたそうです。

吉野耕平(以下吉野):CGキャラクターアニメーションにはまだ慣れていなくて、今回の作品では「何ができるか」の挑戦でした。スタンダードなエンターテインメント作品を作りたいと思いました。とはいえ、世の中はCGキャラクターアニメーションといえばピクサー的表現一色で、もしくは日本のセルアニメキャラクター表現を3Dに置き換えるということが多いなか、それ以外の第3の道がないかなと考えました。最終的にこの作品は10分くらいになりそうです。

―もともとは音楽と映像がシンクロしたアニメーションを考えていた吉野さん。制作する上でそのバランスが変わってきたと言います。

吉野:当初考えていたミュージックビデオ的なものから、10分程度になりそうということもあり、ひょっとしたらショートムービーになってきているなと考えています。それを最終面談でお話したら、これは無限に終わらないパターンだとアドバイス受けました。どうしても細かい設定にこだわって無限に終わらない方向に行きそうでしたが、表現を見失わないようにしっかりと着地させていきたいです。

<アドバイザーからのコメント>
野村辰寿氏:「水の表現」ですが、ピクサーやドリームワークスをはじめとして、CG表現もやり尽くされたと感じる中で、どうやって独自の新しいCGのスタイルが見つかるかということをアドバイスしてきたつもりです。今日上映された予告編では、その努力が見えた気がしましたね。ただ、せっかく自分の成果を見てもらえる機会なので、ただ作品を見せて終わりではなく、もう少し作品を語る言葉が欲しいとは思いますね。

田中秀幸氏:吉野さんのやりたいことは初期の絵コンテからはっきりしていて、その上で新しい表現を模索し続けているんですね。まだ完成していないので喋りたくない部分もあると思いますが、ビデオコンテを見せたというのはかなり勇気があるなと思いました。僕とかは途中のコンテは絶対人に見せられない。これでもうハードルはかなりあがったと思います。頑張ってください。

有坂亜由夢

三番目の発表は「最後の手段」の有坂亜由夢さん、木幡連さん、おいたまいさん。
今回制作した『おにわ』は、実写のコマ撮りやコラージュ、線画のアニメーションをミックスしたアニメーション作品です。

―プレゼンテーションが始まると、木幡さんがおもむろに前口上を読み上げ始めます。そして、それが終わると『おにわ』の上映が始まりました。

前口上を読み上げる木幡さん

おいたまい(以下おいた):私たちはアニメーションや撮影などの大事な部分をほとんど有坂さんが担当していて、木幡くんは有坂さんを横でサポートして、私は二人を応援する、という三人組です。今回の成果としては木幡くんのパフォーマンスと作品の上映が全てです。いまはとにかく感謝の気持ちを伝えたいです。

有坂亜由夢:今回お見せしたのは今日までできたところをまとめたものです。この作品は、最終的にはただ見せるだけの映像作品ではなくて、展示する空間まで自分たちで作って、そこで上映したいと考えています。

おいた:作中にある実写のコマ撮りのシーンは京都のスペースを借りて撮影したのですが、一ヶ月くらい滞在してセットを作って撮影しました。コマ撮りはすごく時間がかかるので、映像で流すと一瞬なんですが、何日もかけて撮影を行いました。

<アドバイザーからのコメント>
タナカカツキ氏:映像はアニメーションだけでなく、スタジオでの実写コマ撮りの表現があったり、渾然一体となっていましたが、その制作のスタイルも最後の手段さんは独特でしたね。アドバイスといっても、前半は撮影の物件探しの相談にも乗りましたね(笑)。実際の空間でやったということで、作品は奇妙な迫力が出ていたと思います。正直ここまで仕上がってくるとは思っていなかったです。

田中秀幸氏:これで完成というわけではなくてもっと作るんですね。最終的な発表方法も工夫しているので、完成が楽しみです。

―次回は第三部(ディスカッション)のレポートを掲載します。