ひらのりょうさんは、第15回で『Hietsuki Bushi』がエンターテインメント部門新人賞を受賞、同回で『ホリデイ』がアニメーション部門審査委員会推薦作品に選出、第18回では『ファンタスティック ワールド』がマンガ部門審査委員会推薦作品に選出されました。今回採択されたのは、『スーパーマーケット』(仮)というアニメーション作品です。郊外にあるスーパーマーケットを舞台にボーイ・ミーツ・ガールの物語を描きます。

アドバイザーはアニメーション作家の野村辰寿氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。

郊外と世界の繋がりを描く

―今まで自主制作のアニメーションとして『ホリデイ』(2011年)、『パラダイス』(2014年)などの作品を制作してきたひらのさん。はじめに今回制作する作品の内容と試みについて説明をしてくださいました。

ひらのりょう(以下、ひらの):僕の地元が埼玉県の郊外で、大きなスーパーマーケットが生活拠点になっています。今までスーパーマーケットは閉鎖的な空間だなと感じていたんですが、視点を変えて捉えると、世界中から海を越えて様々な商品が集まる場所であり、現代のグローバリゼーションによる地球規模の繋がりがある場所なんだと思います。その大きな繋がりをドラマティックに描くことができないかと考えています。

今までも様々なモチーフを題材にしながらボーイ・ミーツ・ガールを描いてきました。今回も、ボーイ・ミーツ・ガールの話を作ります。自分の考えているモチーフを詰め込みつつも、シンプルな物語に仕上げたいと思っています。

新しい試みとして、脚本・演出を拘って会話劇としても成立した物語に仕上げること、3DCGを利用して光の表現を突き詰めること、リアリティのある高品質な音をプロと一緒につくることを考えています。

ひらのさんの作品『ホリデイ』(2011)の予告編
(第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査員会推薦作品)

アニメーションをより広げていくために

ひらの:インディペンデントの短編アニメーション作品は作った後がとても難しいと感じてます。『パラダイス』を作った後も、商品として世に出すことは簡単ではなくて、経済的に回せませんでした。

それから、地道に自分の名前を別のジャンルの人にアピールしていくしかないと考えて、マンガ作品の『ファンタスティック ワールド』を連載したり、テレビドラマのオープニングの映像や演劇の劇中アニメ―ションや雑誌のイラスト制作など、いろいろなジャンルで作品を発表することで、アニメーション作品もひとつのコンテンツとしてみてもらえるような状況をつくれないかと模索しています。

野村辰寿(以下、野村):すでに市場分析もしていているんですね。作家としてどう在るべきかという明快なビジョンもあって、とても頼もしいです。

田中秀幸(以下、田中):そうですね。この作品自体の見せ方はどうしようと考えていますか?

ひらの:『パラダイス』では、ブックレットにマンガやDVDを封入して販売してもらいました。ただ、内容が複雑すぎたので、今作では、ドラマ性を取り入れて、もう少しポップな要素のあるものを作りつつ、きちんとしたパッケージまで作れたらと思っています。ほかには、インディペンデントな作家ではメジャーな発表方法である「動画配信」も含めて考えています。

田中:ただ、配信するとほぼ収益はないよね。

ひらの:そうなんですよね。それを副次的なもので回収するとか、どう解決すべきか考えています。

野村:目指しているところはすごくよく解ります。やはり短編アニメーションで生活していくのは難しい状況ですよね。なんだかんだいって紙媒体がなくなると言いながらもマンガの市場は大きいので、そこでうまく「ひらのブランド」ができれば、逆にアニメーションの世界に吸い上げたりできますね。

田中:いい感じでベストミックスになるといいですね。ただ、なにか間違えると、いままで好きだった人が離れてしまう可能性もあるので気をつけないといけないです。

ひらの:そこのバランスは慎重に考えないといけないと思っています。

野村:ボーイ・ミーツ・ガールというキャッチーなテーマがあっても、ひらのくんの場合は絶対にストレートな作品にはならないと思うんです。基本的に視点がひねくれているのが特徴だから、あえて間口を広げても広がりすぎることはないと思います。そして、媚び過ぎない/臭くなり過ぎないという絶対的な嗅覚も持っている気がします。

作品の肝はスタッフ

ひらの:僕は、作画スタッフを入れたことがないのですが、今回はお願いする予定です。ただ、共同作業のやり方がわかっていないので、どうしたらいいか考えています。

田中:集まったスタッフとうまく意見を統一して共同作業をすれば、それだけで観る人に伝わりやすいポップな作品になると思いますので、あまり外に向けて作品を解りやすくするとかは気にしなくて良いと思っています。

野村:日本は独特のアニメ制作のシステムを作り上げてきた歴史がありますね。それはコンテがあって、レイアウトがあって、原画があって……という話だと思うんだけれども、多くはシリーズもののアニメを作るためのやり方なので、ひらのくんの作品は違うと思います。

大事な事はどんなスタッフが集まって誰に何を頼むという、自分なりのチームができるかどうかだと思うんですよね。作品の拘りは徹底的にやりつつも、チームから出てきた面白い要素は取り入れていけばいいだろうし、ひらのくんはそういう柔軟性もあると思います。

ひらの:そういう化学反応が生まれるといいなと思っています。

田中:今回、いい人と組めるかどうかが全てかもしれないですね。

―まず脚本の背景となるリサーチ作業から始めることで、本格的な作品制作が始まるというひらのさん。9月の中間面談では、そのリサーチ内容をふまえて作られた脚本やコンテを見せる事を目指します。