これまで自主制作のアニメーションとして『ホリデイ』(2011年)、『パラダイス』(2014年)などを制作してきたひらのさん。今回制作している作品は、郊外にあるスーパーマーケットを舞台にボーイ・ミーツ・ガールの物語を描く『スーパーマーケット』(仮)というアニメーション作品です。

担当するアドバイザーはアニメーション作家の野村辰寿氏とアートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。

境界のない世界を描く『スーパーマーケット』

―今回は作品の台本を持ってきてくれたひらのさん。台本をもとにストーリーの確認からスタートしました。

ひらのりょう(以下、ひらの):台本の書き方にならって書いてきましたので読んでください。

田中秀幸(以下、田中):この物語全体のストーリーは時系列で進むんですか?

ひらのりょう(以下、ひらの):そうですね。話は順を追っていますが不思議な感じにしています。スーパーマーケットで女の子と出会い別れてという中で、最終的には男の子が閉店するスーパーマーケットに忍び込もうとする瞬間に、猫を轢いたトラックが偶然通りかかる。猫の幽霊がトラックを追いかけていくと、車の流れと街の光との区別がつかなくなっていく。同じように地平線と星の地上の光の区別がつかなくなってくるなどのモチーフを入れて、境界のないグローバリゼーションにつなげていけないかと考えています。台本を書いてみて、いろいろな人の話を聞きながら絵コンテに起こそうと思っています。

野村辰寿(以下、野村):現実では時系列順に起きている話なんだけど、過去や未来と不思議に繋がりのある会話によって逆説的に展開しているってことなんですね。

国際フェスティバルで受けた世界の洗礼

―作品『パラダイス』がオタワ国際アニメーションフェスティバルでノミネートされ、カナダのオタワに行ってきたというひらのさん。惜しくも賞は獲れなかったものの、初めて参加した海外の映画祭でたくさんの刺激を受けたそうです。今回はそのことについても話してくれました。

ひらの:映画祭では、短編映像のコンペティションを観たのですが、ほとんどの作品が10分以下の短い作品だったんです。そうなってくると、僕が今までやっていたいろいろなモチーフを詰め込んでいく手法は難しく、一つのネタでやった方が良い。これから映画祭でサバイブするのか、個人で作品を世に出してサバイブするのか、ものすごく難しいなと思ったんです。

野村辰寿(以下、野村):映画祭の審査をする側からすると、第一次選考ではエッジのあるものを選んだりするんだけど、その作品がそのまま入賞するかは別ですね。ユーモアがあるかなど、バランスを客観視することが重要ですね。

ひらの:いろいろなアニメーション作家と話しました。アメリカのアートスクールで教えている作家は、ひたすら指示書を作って弟子に指示をしているそうです。カナダの作家はNFB(カナダ国営映画局)と契約をして大規模な作品が作れるという話をしていました。NFBは複数人でシナリオを徹底的に読むという話を聞いたので、それには挑戦したいと思っています。あとは、声優の声を先に撮るそうです。ほとんどセリフのない作品ばかり作ってきたので、こういう部分も挑戦してみたいなと思いました。

「表現としての新しさ」がどこかに必要

ひらの:映画祭で見ていると、言葉が必要ない作品と、ほとんどセリフを喋っている作品があって。自分はどちらも好きですが、言葉をどう扱うかは慎重に考えていかないといけないと思っています。言葉は、アニメーションのひとつの要素として詩的な部分を喚起させると思うので、そのバランスで頭を悩ませています。短編アニメーションの尺でやるのは難しいです。

野村:言葉を使わないストーリーでどこまでできるかにも限界がありますよね。短編で、言葉がなくて、ストーリーがすごくわかって、物語の新しい構造があればすごく魅力だとは思います。

ひらの:今回もとりあえず台本を書いてはみたものの、本当に喋らせるのかどうかはまだ悩んでいる状態です。

野村:短編アニメーションは、絵の画期性や実験性が評価の基本になる気がします。ひらのくんは、概念やコンセプトが先にあって、自分の考えた構造や設定を伝えなきゃいけないという使命が出てしまうじゃないですか。今回も、ロジカルにいろいろなものを見て、構造や傾向、潮流などを勉強していて熱心でいいと思うけども、『パラダイス』は勢いでできた部分もありますよね。混沌としたあの勢いがなくなっちゃうとだめだと思うから、あまり考えすぎないでいいと思います。

田中:絵より先に言葉にしちゃうと、言葉に完全に支配されちゃうと思うんです。20分という尺をどういう形で作っていくのが一番いいのか。いま、全体的にモヤッとしているので、どこか1か所を決めないとなかなか収束しないと思います。

野村:短編アニメーションフェスティバルの立ち位置は、基本的にアートな気がするのね。わかりやすさとかメジャーさというよりは、「見たことのない表現」合戦だから、そこで勝負していくのか、より大衆的に日本のマーケットで地位を作ろうとするのかによって、作品の落としどころがだいぶ違ってくる気がします。

田中:少なくともどこかに新しい表現が感じられないと、ショートムービーとしての評価のしようがないですよね。ストーリーが面白い作品は世の中にいっぱいあるので、表現としての新しさがどこかに存在するべきだと思います。そのポイントさえおさえれば好きにやっていいんじゃないでしょうか。『パラダイス』は一人でやっているゆえの計画性のなさなどがドキッとする演出につながっていたような気がするんですね。もしかしたら、もう一度客観的に、みんなに響いているのはどこかを発見して、そこを追及する作業が必要なんじゃないでしょうか。今は戦略に走り過ぎているような気もするんです。それはそれでいいと思うんだけれど、一番いいところがなくなっちゃうとそれは違いますよね。今回はゼロから違う人がやっているような気がするんですよ。

野村:短編で一等賞をとるのって、なんだかんだいってナラティブで、新しい絵のスタイルがあってというのがコアなゾーンじゃないですか。そこで勝負をせざるを得ないから、文学的な素晴らしさとビジュアル的な素晴らしさが絡まらないと一等賞は取れない気がするんですよね。一等賞をとってほしいから、練りこんでいってほしいですね。

田中:ストーリーテラーであることを意識した方が良いと思いますね。

ひらの:これまでも最初は詰めて詰めて考えて、最終的に全部忘れて、結果的に勢いで作ったので、今回もそうなる気がします。頑張ります。

―アドバイザーの具体的なアドバイスを受けてひらのさんの制作は進みます。11月後半の最終面談に向けて制作を進めます。