インクなどを用いた手描きの短編アニメーションを制作している久保雄太郎さん。『crazy for it』が第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品に選出、『石けり』が富川国際学生アニメーション映画祭2013オンライン最優秀賞受賞、『00:08』がアニマ・ムンディ2014ベストギャラリーフィルム受賞など数々の賞を受けています。今回採択された企画『Green』(仮)は、アニメーションの動きとその根底にある仕組み、法則(ルール付け)といった関係性に焦点を当てた新作アニメーションです。ある法則の中で展開していくノンナラティブ短編アニメーションで、音もアニメーションの構造に付随する法則・仕組みを構想中です。
久保さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家の野村辰寿氏と、アートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
―中間面談は、スカイプを用いての面談となりました。
具体的な制作スケジュールを
久保雄太郎(以下、久保):音楽を担当していただく上水樽(うえみずたる)さんとは一度会ってお話をしましたが、どういうルールを決めていくべきかとアイディアを出しあっているところです。音楽の構造を、ひとつのフレーズが繰り返される中で少しずつズレていき、やがて次のフレーズを追い越していくようなものにしようかという話は進んでいるのですが、仕事との兼ね合いでなかなか作業時間を作れず、正直に申し上げてその先の実制作については進んでいないのが現状です。
野村辰寿(以下、野村):今日は見るものはないという感じでしょうか。しかし、この事業に応募した大勢の中から久保さんは採択されているわけなので、もう少し緊張感を持って取り組んでほしいと思います。もちろん仕事で食べていかないといけないという状況もわかりますが、僕たちがアドバイスできる期間も決まっているので、具体的にどう進めるかを意識して制作してください。
二人で考えた、「フレーズが追いかけていく」という概念的なものがどうやって表現されるのかについても具体的に想像がつかないので、音楽の打ち合わせを経ていつまでにスケッチを上げるというような、具体的なスケジューリングをしていかないと形になっていかないと思います。
久保:上水樽さんも暫くは動けないということですので、僕が10月中にラフなイメージボードとコンテや構成を作る予定です。それを2人で確認して、11月頭にはどのような音楽とアニメーションの関係性が面白いかという話や、音楽先行で作るのかそれとも映像先行で作るのかというところを決めたいと考えています。
田中秀幸(以下、田中):そのラフなイメージボードくらいは今日の段階に間に合わせてほしかったですよね。
野村:構造がすごく大事な作品だと思うので、音楽家とがっちり組んでください。音楽が先か映像が先かというよりは、音楽の構造自体が映像の構成になっている作品ですよね。
久保:11月以降の仕事は落ち着いている予定なので、多くの時間を自分の制作に取れるように確保しています。来月から本格的に進めていきたいと思います。
野村:仕方ないですが、そうすると進捗が見られるのは11月以降という感じになりますね。年度末には成果発表があるので、そこに向けて具体的に進めていきましょう。僕たちアドバイザーの役割は具体的に完成に導く仕事でもあるので、次の最終面談のときにはアドバイスを言える材料を持ってきてほしいです。
田中:とりあえず具体的なスケジュールを急いで作りましょう。成果発表までに具体的な成果が出るようなスケジュールを立てて見せてもらえればと思います。
その後の進捗報告
後日、「作品を構成するルールの方向性」や、「音楽と映像の関係」「イメージボード」などについてメールでアドバイザーに報告されました。
久保さんはこれから本作を作る上での大量のルールを作り、そのルールに則ってアニメーションを制作するとのことです。
設定されるルールは
・すべてのルールを守ること
・常に四角形は動いていること
というような大まかな構造を作るものもありますが、
・03:12の構図は00:56の構図を反転したものをベースとする
・四角形と別に描かれた絵は、この四角形のアウトラインの外に出てはいけない。ただし、四角形どうしが重なり合った部分はこの限りではない。
といった細かなものまで、多岐にわたる予定です。
音楽と映像の関係についても、先のルールがあることで、強度が増すと考えられ、例えば、J.S.バッハの時代に見られる「蟹カノン」や「謎カノン」や、楽譜の記譜においても視覚的に鏡像になっているフレデリック・ジェフスキーの『Ludus Tonalis』の音楽などを参考にしながら、映像と親和性を持ちやすいような音楽を、引き続き作曲担当と打合せしていくとのことです。
また、ルールに従って制作をする前に全体の流れをつかむために絵コンテとイメージボードも制作されました。
大量のルールを設定することで、久保さん自身も想定していなかったような展開が生まれ、それが作品の個性となることを期待しているとのことです。
次回の最終面談では、具体的な進捗報告がされる予定です。