メディア芸術クリエイター育成支援事業では、クリエイターにとって必要なスキル向上のためのレクチャーと、クリエイター育成支援事業や新進芸術家海外研修制度でサポートを受けた作家による事例紹介を行っています。
ここでは、2016年11月4日にアーツ千代田 3331にて二部構成で行われたレクチャーと作家のプレゼンテーションを紹介します。第二部では、過去に本事業の支援を受けたクリエイターのなかから、メディアアーティスト・表現研究の藤木淳氏とアーティストの三原聡一郎氏より、本事業で制作した作品やその後の活動、この支援の活用などについてお話しいただきました。
常に変化し続け、永遠を想起させる[藤木淳]
―2011年、メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択され、『ゲームキョウカイ』を制作した藤木淳さん。『ゲームキョウカイ』はファミリーコンピューター(ファミコン)にはじまり、PlayStationからWii、Xbox 360 Kinectにいたるまで、古今の家庭用ゲーム機を一望するかのように並べられた作品です。一番左側のゲームを操作し、クリアすると、キャラクターは隣のゲーム機に移ります。それをクリアすると、また次のゲーム機へ、と移っていく。こうしたテレビゲームの歴史を体感できる作品がどのようにして生まれたのか、その制作の裏側を伺いました。
藤木淳:僕はもともと、世界とものごとや人との関係性といったことに興味があり、それらをプログラムや回路をツールに検証し、確認する、という動機で制作をしてきました。
そのような作品の例として、だまし絵のようにキャラクターが有り得ない空間を行き来可能とするインタラクティブソフトウェア『OLE Coordinate System』(第10回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞)があります。この作品を見たゲーム会社のプロデューサーからゲームにしたい、と話をいただき、PSP用の『無限回廊』というパズルゲームにつながりました。その後に発売された、PlayStation Move用の『無限回廊 光と影の箱』(第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞)は、プレイヤーがMoveというリモコンを懐中電灯とみなして影を操作し、その影をキャラクターに歩かせゴールに導く、というゲームです。ここでは監修を担当しました。
『ゲームキョウカイ』のコンセプトとしては、さまざまなゲーム機を横断しているかのように楽しむゲームで、さまざまなゲームの「境界」をシームレスにつなぐ試みでもあるとしています。ここでの「境界」とは物理的な境界だけではなく、認知や社会の「境界」も含んでいます。作品のアイディアは、一つのパソコンを複数のモニターで表示させるデュアルディスプレイから来ています。
この作品は国内各所での展示のほか、アイルランド、フランス、台湾、ロシア、シンガポールなど海外でも発表させてもらい、オーストリアで開催されたArs ElectronicaのHybrid Art部門ではHonorary Mentionsをいただけました。
クリエイター支援事業を採択されて3つほど大きなメリットがありました。一つは資金面、二つ目はアドバイザーといって専門家によるアドバイスが受けられること、そして最後に、大人数で制作する機会になり、制作の幅が広がりました。
最近の制作について少しお話しますと、京橋のart space kimura ASK?にて、収束も発散もせず、絶えずリズムをつくるロボットを展示しました。常に変化し続けるもの、永遠的なものをつくりたいと思っていろいろと実験を続けています。
生命とエネルギーから、「空白」を模索するプロジェクト[三原聡一郎]
―三原聡一郎さんは、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS]を卒業し、その後山口情報芸術センター[YCAM]で7年間勤務。その後も作家活動を続けています。平成25年度文化庁新進芸術家海外研修制度や平成26年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択。2011年より、テクノロジーと社会の関係性を考察するために「空白」をテーマにしたプロジェクトを国内外で展開しています。
三原聡一郎:僕は音に興味があり、制作をしています。特に、以前はサウンドアートと呼ばれるような音響を使ったインスタレーションなどをつくっていました。
制作の転機になったのは東日本大震災でした。福島の原発事故もあり、制作をしていく上で社会との関係性や生命について改めて考え始めました。そして「空白」というプロジェクトを始めます。「空白」というのは、喪失感から生まれるような「空虚」ではなく、未来に対して新たな答えが残されている希望の「空白」という思いから使っている言葉です。
平成25年度の文化庁新進芸術家海外研修制度では、西オーストラリア大学のアートラボ「SymbioticA」に滞在していました。ここは生命科学や人間解剖学を専門とする学科のなかにある、アートとサイエンスの研究施設です。DNAの組み替えや細胞培養などの生物学的な実験ができたり、制作をする上で科学的なアプローチについての方法や資金、法律などの相談もできる場所です。
ここでは、まず自分の皮膚細胞を培養しました。具体的な作品になるというよりは、検証という段階です。この検証を通して、ようやく研究者たちと対等な関係でバイオロジーの話をしたり、アートの話をフィードバックしたりといった対話が生まれました。その後、ラボのメンバーと、研究の一環でオーストラリアの北にある砂漠地帯に行ったのですが、そこで採取した土との出会いが、現在の制作につながるきっかけとなりました。その土について色々調べていると、苔のなかにいる微生物が発電をする「微生物燃料電池」という研究テーマがあることを知りました。科学の分野でもまだ新しい研究ですが、自分の興味である「生命」と「エネルギー」をつなぐテーマだと思いました。
ただ、微生物燃料電池は自作できるのですが、コストがかかります。個人の制作範囲ではつくれないと思い、クリエイター育成支援事業に応募した、という経緯です。日本では色々な場所で砂や土を採取しましたが、なぜか、最も発電の能力が高かった静岡県浜松市の砂で虹を発生させる装置をつくりました。虹をつくるときに使う、集光レンズや分光レンズが個人ではなかなか手に入らないものなので、この事業の事務局であるCG-ARTSを通して購入することができたことは幸運でした。
苔玉を使ったデバイスや微生物燃料電池は、その後、京都芸術センターの個展で展示し、そのほか茨城県北芸術祭、メディアシティ・ソウル(韓国)などでも展示しました。
また、研究機関とのつながりではその後もチェコの水生植物の研究所にいったり、東京薬科大学の生命エネルギー工学研究所の先生に協力をいただいたり、専門家に会う機会も増えています。
―クリエイター育成支援事業を糧に制作の幅を広げたお二人のお話でした。今後のお二人の活躍が楽しみです。