インクなどを用いた手描きの短編アニメーションを制作している久保雄太郎さん。『crazy for it』が第16回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品に選出、『石けり』が富川国際学生アニメーション映画祭2013オンライン最優秀賞受賞、『00:08』がアニマ・ムンディ2014ベストギャラリーフィルム受賞など数々の賞を受けています。今回採択された企画『Green』(仮)は、アニメーションの動きとその根底にある仕組み、法則(ルール付け)といった関係性に焦点を当てた新作アニメーションです。ある法則の中で展開していくノンナラティブ短編アニメーションで、音もアニメーションの構造に付随する法則・仕組みを構想中です。
久保さんのアドバイザーを担当するのは、アニメーション作家の野村辰寿氏と、アートディレクター/映像ディレクターの田中秀幸氏です。
ルールと構造
久保雄太郎(以下、久保) 今回の作品の制作を進めるにあたり、前回の面談以降考えてみたのですが、改めてルールがあまりに多すぎると思いました。ルールを多く設定して制作するということ自体はトライアルとして面白いと思っているのですが、当初お話していた「動き」と「ルール」の関係性や構造とはかけ離れている部分があるため、自分が本当にやりたい狙いからずれてきていると再確認しました。初回面談でジョルジュ・シュヴィツゲベルの作品のルールの話をしましたが、そのルールや構造は画面で見るとすごく複雑だけれども、解説を聞くと、画面から受ける印象ほど複雑ではなく、ルールをいくつも設けているというよりも作家の中で洗練したものを形にしています。ですので、最初のイメージとは若干変わってきますが、四角ではなく「線」で区切りを作ろうと思いました。線がひとつの動きを作り、その動きから上下反転したり向きを変えたりして別画面を作るひとつの要素にしていこうと考えています。
音の構造は、譜面が最初と終わりで逆になったりシンメトリーになったり、その構造自体で面白いことができないかと相談しています。線が動いたところをイメージに近い音とつなげてみたのがこの動画です。大体3分程度で、タイトルとエンドロールを合わせて4分程度を目安に進めようと思っています。
イメージボードにはいろいろな要素が入っているのですが、動かしたい絵に寄せて構造をつくろうと思っています。四角よりは線で途切れている方が描きやすいというのと、絵として見たときに自分の中でしっくりきたものがあったので、きっちり四角にするのではない方向で考えています。前半は白黒で徐々に音とともに色が加わっていき、徐々に盛り上がるような、線の一本一本を楽章別にしようと思っています。まだしっかり譜面ができているわけではないので多少変更するとは思いますがこのような感じで進めています。
具体性と抽象性
野村辰寿(以下、野村):ひとつの線が動き、音の追加に伴って線が増えていき、最終的には5つくらいになりますね。最初は同じ動きの動画の開始ポイントを遅らせて、クロスするタイミングが定期的にあることによって四角ができていくという構造だと思っていたのですが、そういうわけではないんですね。最初から最後まですべて描いているんですか?
久保:すべて描いているわけではありません。構造となるそれぞれの線は動画の尺がすべて一緒になっており、繰り返し使い回している部分もあります。線が増えていく際に、反転させたりシンメトリーになっているところをどれくらい理解できる仕組みにするかを悩んでいます。最初から気づくというよりは、作品の途中でシンメトリーになっていることや同じ素材でやっていることに気づいてくれたら良いと思うのですが、なかなか難しいかもしれません。
野村:幾何的な構造になっていると思う部分もあったけれど、見ていると有機的な変化があるので、結局全てを描いたのかなと思って聞きました。いまは骨となる線の動きだけを描いて、このイメージが久保さんの中でどんどん変わりながら最終的には一枚の絵の密度が増えるわけですよね。だから、全編を通して構造的なループ感が擬似的にありながらも、結局全部が有機的な展開になっているということなんですよね。
久保:そうですね、構造を作る線からはじまって、最初から線の中に絵が入るという形ではないのですが、線によって徐々に区切られていくと中のイメージが有機的に生まれていくという形にしようと思っています。
野村:この5本の線の構造によってできた形から、何らかの具体的なモチーフのある絵をつくっていくということですよね。展開が見えてきた感じがしますね。
田中秀幸(以下、田中):そうですね。構造的な部分は具体的なイメージの中に埋没してしまいそうな気がします。でも構造的なところは裏のテーマで、具体的なイメージの見え方がメインのストーリーとなるっていくのであれば良いのかなと思います。音楽も複雑になってきそうなので音楽とのシンクロもはっきりとは見えてこないけれど、印象としてすごく気持ちいいもの、それはなぜなのかと知りたくなるような印象の作品になる気がしますね。
野村:だからこそ、「なるほど」と思うようなタイトルが必要なのかもしれませんね。
ルールのわかりやすさ
田中:イメージが四角で囲われていないというのはどういう意図があるのですか?やはり囲われてない方が良いということなんでしょうか?
久保:かなり陳腐な言い方になるのですが……ピンときたからです。
田中:ラインが全部フレームアウトしていたりするとわかりやすくはなるんですけどね。
野村:オートマティズムで自分が描くためのソースを構造的なところから引き出す、ということなんでしょうね。具象物ではなく、それが段々とエスカレートして最後で終止するという形の中で、内包する形が外に飛び出したりするような外的要因を自身のイマジネーションに与えるためのバーみたいなところでしょうか。
久保:そうですね。今回、悩んでいて進みが遅いです。ひとつ前の作品は簡潔なルールがあったので作りやすかったのですが……。そのルールの中から、自分が美しいと思うものに近づいた瞬間を見つけていく方が今後制作する中でいい形になっていくという考えもあり、今回はルールの中で悩みながら進めていくのが良いと思っていました。
田中:どちらがいいですかね。僕はルールの中で変化していく四角の中に絵を描いていくのがおもしろくなりそうな気がしたのですが、その枠を取っ払った理由を知りたかったので。
野村:四角で囲うと、その中のモチーフや絵により具体性が出ますよね。今はより抽象度が高くなっているということでしょうか。
田中:そうですね。四角というルールがあった方わかりやすいと思うんです。ルールが曖昧で複雑になってきたという感じはしましたね。四角で囲わなくなった分、境界線を意識した絵にしていかないとわかりにくくなっていくのかなと思います。黒い線なので、色のついたイメージを入れていくとそちらの方が強くなってくるので、線をより意識しないとわかりにくくなってしまう気がします。
野村:線だけ黒にして、まわりのイメージに黒は使わないようにするとか。
久保:それだと確実に線が隠れることはないので、確かに差別化はした方が良いかもしれません。いま作画を進めているのですが、まだ完成形の画面を確認できていないので、核心に繋がっているのかも確認しながら進めたいと思います。
―作品の完成は2017年5月を予定しているという久保さん。成果発表では予告編と作品の概要を発表できるよう、作業を進めていくとのことです。