9組のクリエイターと4名のアドバイザーによる「成果プレゼンテーション & トーク」が、2017年3月4日(土)、渋谷区のPORTAL POINT GALLERYにて開催されました。
はじめに海外クリエイター招へいプログラムで招へいされた3名による滞在制作の成果発表があり、次に国内クリエイター創作支援に採択された6組のクリエイターによる本事業で制作された作品のプレゼンテーションが行われました。

その様子を3回にわたって(第一回:イヴァン・ヘンリケス、アレスィア・シュキナ、ソウゲン・チュン、第二回:金箱 淳一・石上 理彩子、久保 雄太郎、林 俊作、第三回:平川 紀道、安本 匡佑、吉開 菜央)レポートをお伝えしていきます。

今回は国内クリエイター創作支援で約8ヶ月にわたり制作を行った金箱淳一さん・石上理彩子さん、久保雄太郎さん、林俊作さんの3組の成果発表の様子をお伝えします。

金箱 淳一・石上 理彩子

楽器のシステム全般の制作を行った金箱淳一さんと、衣装のデザイン・制作とを担当した石上理彩子さんによる協働企画『楽器を纏う』。ダンサーの身体に楽器を纏うというテーマで新たなテキスタイルの可能性を考えるプロジェクトです。

―まず最初に、ダンサーがまとった楽器によるパフォーマンスが行われ、その後プレゼンテーションが行われました。

金箱淳一(以下、金箱):ダンサーの衣装に楽器の機能を持たせることで、人間と衣服の距離をかぎりなくゼロに近づけることを試み、2種類の衣装を制作しました。一つは、胸の辺りにあるプリント部分に触れることでボディパーカッションのように演奏できるものです。これは静電容量センサと導電インクを使用しています。

石上理彩子(以下、石上):タッチセンサ部分は量産展開を視野に入れ、シルクスクリーンプリントの印刷方法を選びました。プリントのデザインは芽が出て咲く花をイメージしています。

金箱:もう一つは、片腕の部分が蛇腹になった服です。この蛇腹部分を開閉することで、アコーディオンのように音量や音程をコントロールできる仕組みになっています。蛇腹部分にはカーボンを練り込んだゴム紐が内蔵されており、指先に装着したセンサによって、音の変化をコントロールしています。

今回の反省点は、電子基板や機構を強化していくうえで、硬いものづくりに寄ってしまったことです。服は本来、着用しても動きやすい柔らかいものです。柔らかいテキスタイルとのコラボレーションでは、柔らかなハードウェアの必要性がありました。人間がテクノロジーを纏うとはどのようなことか、今回で得た気づきを次に活かしていきたいです。

石上:衣装に関しては、普段の服づくりと比較しても、機能的で社会性の強い衣服に挑戦することができたと思います。衣服のように柔らかいものと、基板のように硬いものが混ざるためにはそのコネクト部分が大変重要だと感じました。次は導電インクを用いた刺繍やパッチワークなども考えていきたいです。

遠藤雅伸:技術的な問題を解決し、最終的にやりたいものが形になった点が評価できます。ただ今回披露されたパフォーマンスでは、「演奏している感じ」が伝わりにくかったようにも思えます。もう少しわざとらしい振り付けがあってもよかったのではないでしょうか。ただ、ここまで仕上がって大変よかったと思います。

畠中実(以下、畠中):当初から目標にされていた「柔らかさ」と「硬さ」のイメージの共存が実現していますね。もともと量産展開を視野に入れた作品でしたが、研究機関など、各所へのリサーチや協力依頼により完成までこぎつけたことがすごいと思います。パフォーマンスに関しては遠藤さんと同意見ですが、デザインも美しくかっこいい「楽器服」になったのではないでしょうか。

金箱:今回は会場の都合上、スピーカーが一組だったこともあり、楽器や演奏者の存在がわかりにくかったかもしれません。ダンサーの近くにスピーカーを配置すれば、より臨場感がでたかもしれません。

石上:演奏しているパーツをどこにつければいいか、というのも今後の課題の一つです。今回取り付けた胸の部分だけではなく、足や肘、脇などにもプリントしてみたいと思いました。

久保 雄太郎

インクなどを用いた手描きの短編アニメーションを制作する久保雄太郎さん。今回の作品『Green』(仮)は、アニメーションの動きとその根底にある仕組みに焦点を当てた、ある法則の中で展開していくノンナラティブの短編アニメーションです。

久保雄太郎(以下、久保):今回の企画では、ある定められた法則に基づいてモチーフが動き展開していくアニメーションの制作に挑戦しました。ストーリーはとくにありません。アニメーションは、作者自身がコントロールできる部分の多い表現メディアだと思いますが、今回は基本となる動作をつくり、それを徐々に展開していくことで、作者自身でもコントロールできない表現が生まれるのではないか。そこから新しい制作スタイルを探りたいと思い、この事業に企画を応募しました。

映像は、背景で流れている音楽の構造をベースとして、映像の中の「線」をアニメーションにして動かしています。まず11秒の楽譜をモチーフにした線の動きをつくり、これが動きの基本となります。そして、楽譜自体を左右反転させた音や、楽譜をいくつもの音で同時に演奏したり、曲の真ん中で譜面をずらしたりすることに連動して、アニメーションにおいても構造が複雑に変化していきます。

このようにルールに基づいてアニメーションを作っていきますが、ルールの存在が鑑賞者に伝わることを重要視しているわけではありません。今回の制作を通じて、ルールを伝えるのではなく、制作をする上でこうした考え方の柱になるものが重要なのだと気づきました。現段階では半分ほどできている状況ですが、これからまだまだ沢山の作画を描く必要があり、完成に向けて引き続き取り組んでいきたいと思います。

野村辰寿(以下、野村):ガイドとなる線の動きをつくったのは、つくり方として久保さんらしいと思いました。後半は制作途中ということですが、イメージボードを拝見しますと、全編を通してにぎにぎしい感じがします。それが作品のインパクトとなっているのですが、前半からたくさんのモチーフが出ていると、後半に向かっての盛り上がりを表現するのが難しいかもしれません。抽象的に描かれたモチーフを用いてどのように盛り上がらせていくか。今後の制作ではその流れを計画的につくっていくと良いのではないでしょうか。

そういう意味で、見せるうえでの「もったいつけ」や「メリハリ」を意識すると良いのではないかと思いました。これからこのアニメーションに着色がされていくわけですので、さらに強いインパクトのある、力強い表現になっていくことを期待しています。

久保:はい。アニメーションの構成として、前半から後半にかけての盛り上がりの見え方についてはとくに意識して完成に向け制作していこうと思います。

林俊作

海外の映画祭でもアニメーション作品が高い評価を受けている林俊作さん。絵画と映像の中間で流れる、異なる時間性に着目した『Animated Painting / Painted Animation』というアニメーション、絵画作品を制作しました。横軸で時間が進行する巨大な絵画を描き、それを撮影した画像素材をもとにアニメーションにしています。

林俊作(以下、林):全体で8分の映像作品を制作していますが、最初の5分はできあがりまして、残り3分を制作中です。この作品では縦180cm、幅幅10mの大きな絵画を描きながら、同時にアニメーションをつくっています。絵画とアニメーション制作の両プロセスがどのように相互に影響するかを試みました。

この作品は、今年の5月にドイツの映画祭でプレミア上映をすることになりましたが、いずれ絵画と映像のどちらも見せる展覧会形式の発表機会をつくりたいと考えています。

作品のストーリーとして心がけたのは、メインキャラクターをつくらないこと。以前の作品では、自身を投影したキャラクターが物語をナレートしていくスタイルでしたが、今回は「複製された生き物が同時に動くこと」を意識してつくりました。

作品をつくるうえでよく考えるのは、自分自身の意識の領域はどこからどこまでなのか、といったことです。本作においても「意識が移動していくこと」をコンセプトにしました。意識が停留しながらも次の場所をまっている様子、それを1枚の絵のなかで、シーンを展開させながら表現したいと思っています。

畠中:構想の段階では、モーションペインティングのように絵のプロセスがそのままアニメーションになるか、またはウィリアム・ケントリッジのように描いては消して、消しては描いてといったペインティングのようなものになるかと思っていました。実際は絵を描いて、その画像素材もとにアニメーションがつくられている。その点が特徴的ですね。絵画とアニメーションのハイブリットな制作方法としてひとつの良い見本になっていくのではないかと思いました。

絵画とアニメーションを同時に展示するアイデアはとても面白いと思います。アニメーションの前半部分では、絵画のディティールをピックアップし、後半部分は左から右へとスクロールしていく。ここでどのように描き込み、動かすかが本作の醍醐味でしょうが、やはり後半部分が見せどころでしょう。

野村:絵が大きいので、それ自体で作品に惹き付ける力がありますね。緊張感があるなかにも展開があり、絵の力もある。ただ、絵画とアニメーションの最終着地点がいまはあまり見えてきません。作品の終わらせ方をもう一工夫すると、林さんのコンセプトを反映できるのではないでしょうか。

林:はい。現在制作中の最後の3分間についてはとくに集中して制作していきたいと思います。絵画の密度にも関係しますので、緊張感をもって引き続き取り組んでいきます。