TVアニメーションや広告アニメーションを手がけているディレクター/キャラクターデザイナー/グラフィックデザイナーの藤田純平さん。第9回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門奨励賞『SEASONS』、第13回アニメーション部門審査委員会推薦作品『忘却星の公式』をはじめ、多数の受賞歴があります。今回採択された『BIBLIOMANIA』は、本をモチーフにしたVRアニメーションです。ヘッドマウントディスプレイを装着して鑑賞する本作は「空間をめくっていく」VRならではの体験設計を目指します。

アドバイザー:タナカカツキ(マンガ家)/森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)

初回面談後に修正した箇所について

―中間面談には、テクニカルディレクターの森本慧さんも参加しました。

藤田純平(以下、藤田):初回面談では、大きく6つほどアドバイスをいただきました。

①ヒロインの行動の理解や共感を冒頭段階で強める
②中盤以降のヒロインの危機感を強める
③序盤に出現する異形キャラクターの出自を分かりやすくする
④ユーザーの後方からキャラクターが出現するといった驚きを入れる
⑤インタラクティブシーンでのユーザーの快感を向上させる
⑥ヒロインの成長を見せる

などです。
これらのアドバイスをもとに演出や編集を調整しました。特に⑤に関しては、インタラクティブ演出を全て見直しました。ヒロインの感覚を鑑賞者も同期して体験できるような主観的要素を取り入れたり、鑑賞者の快感を考慮した方向に調整しています。インタラクティブシーンの数も増やしました。⑥についてのみ、完全には解決できないと感じています。色々と考えたのですが、ストーリーの構造上どうしても成長を描けないヒロインなんです。ヒロインが話の中では成長しないことに意味があるんですね。彼女が成長してしまうと彼女が暗喩しているものとも矛盾してしまうと思うのです。ですので、ヒロインがいかにして「成長しない存在」になったのかをユーザーが直感的に理解しやすくなるような調整に留めました。具体的には、終盤の回想シーンの視覚言語を多めにしました。

タナカカツキ(以下、タナカ):⑥の調整は良いと思います。主人公がどうして「悪」になったかを描くことで、成長や変化が感じられるようになるのではないでしょうか。ユーザーが主人公の両腕を動かすことができるというのはVRならではのことなので興味深いです。

森まさあき(以下、森):④のシーンでは音を立体的に構成できるといいですね。背後から音が聞こえると、思わず振り向きたくなるのではないでしょうか。

VR環境でフィールドを確認

―ヘッドマウントディスプレイを装着して、VR空間上のフィールドを体感するデモンストレーションを行いました。

VR空間上のフィールドのようす

森:階段があると落ちそうで怖いですね。いくつかのシーンを確認するなかで、足元が不安定なシーンが特に面白いと感じました。足元の怖さは、作品表現の中で効果的に使えそうです。また、フィールドは広いですが、目で見える範囲はそう広いわけではないことが分かりました。フィールドの雰囲気は分かりましたが、ここから物語がどう展開していくのか気になりました。ユーザーは、本筋から逸れた行動もしたくなりそうなので、ストーリーが分からなくなってしまう可能性もありそうです。

藤田:ファジー(あいまい)な設計にしてしまうと、その恐れがありますよね。VRならではの自由度はもちろん残しつつですが、鑑賞者の視覚と聴覚の誘導は念入りに計算して作ります。

森:ユーザーが主人公になれるようなシーンもあるのでしょうか。

藤田:はい、ヒロイン視点になるシーンもあります。顕著なのは前述のインタラクティブ演出の際のシーンですね。意味無く主観視点になるのは鑑賞者に戸惑いが生じると思いますので、必然性を持たせて設計しています。序盤と終盤で、同じ主人公の視点でも「こう変わるのか!」といった具合に伏線と回収の関係になるようにしています。初回面談でいただいた「ヒロインの身体状況を鑑賞者も同期して体感できると良い」という森先生のアドバイスと、「インタラクティブ体験は鑑賞者に快感があった方が良い」というタナカ先生のアドバイスからこの整理に至りました。

森:そうですね、ただ見ているだけでなくインタラクティブな要素も加わることで、爽快感が出てくると思います。

表現の新しさを伝えるための方法

タナカ:これからはどんどん制作を進めて、作品の密度を高めていく段階になりますね。現時点で何か課題はありますか。

藤田:一番の課題は予算ですが、限られた条件の中でどのようにモーションとVFXを魅力的にするかを悩みながら設計しています。問題を一つひとつ、少しずつ解決していきながら進めている状況です。

森本慧:今回はVR開発ということでモバイル型の開発になるのですが、意外と手探りでやっていくところも多いので、難しいと感じています。据え置き型のゲームの知識や情報が応用できないことも多いです。

タナカ:この作品ができ上がったあかつきには、どうなっていくのが理想でしょうか。

藤田:スタンドアローン型の家庭用VRデバイスにおいて、VRゲームは相当なソフト数が販売されていますが、VRアニメーションは日本製のものがまだあまりありません。こんなに面白い表現があるということを一人でも多くの方に伝えられたら良いなと思っています。内容はダークですが、お化け屋敷のような普遍的に楽しめるエンターテインメントとして作っているので、さまざまな国の方に体験していただきたいです。

タナカ:別の「こんな作品がVRアニメーションだったら面白いかも」といった話にもつながっていきそうですね。そうしたときに「VRアニメーション」という言葉で本当にいいのでしょうか。「VR」や「アニメーション」は昔からある言葉なので、何か違う新しさを伝えるのにふさわしい言葉がいいのではないかと思いました。作品の未来の着地ポイントが見えていると、つくる工程でも違いが出てくるはずです。

藤田:確かにそう思います。ジャンルを定義する言葉についても検討してみます。

森:お化け屋敷的な表現においては、音楽やサウンドエフェクトが重要だと感じました。ビジュアルだけでユーザーを驚かせるのが難しいシーンでも、音が加わることでびっくりさせたり怖がらせたりすることができます。

藤田:今いただいたアドバイスでアイディアの視野が広がりました。今後は、より音の力を意識して設計作業をしてみます。

タナカ:成果発表では、予告編が公開できると良いですね。ぜひ音もつくり込んでほしいです。いい予告編ができたら、自然とスポンサーもついてくるはずです。

藤田:予告編が公開できるよう制作を頑張ります。次の面談では、完成形に近いヒロインのCGなどをVR環境で見ていただけるようにしたいです。

─今後は、最終面談と成果発表に向けて、引き続き実制作を進めていく予定です。