採択された『それぞれの日々』は、福岡市に住んでいる6組にインタビューした内容をもとに制作するアニメーション作品です。コロナ禍で他者との交流を制限される中、街に住む人たちはどんなことを考え、どう過ごしていたのか。何に不安を感じ、希望を見出して過ごしていたか。変化の時間の中にあった、「歴史に残ることのない、ささやかな、誰かの日常」の漠然とした不安を忘れないための作品を制作します。最終面談では、今後、作業を加速させていく予定であることを踏まえながら作品の構成を長野櫻子(anno lab)さんがあらためて語りました。

アドバイザー:森まさあき(アニメーション作家/東京造形大学名誉教授)/米光一成(ゲーム作家)

最終面談:2024年1月15日(月)

作り手の意図が入りすぎないような構成を

中間面談のあと、Vコンテの制作と、インタビュー相手6組に対する再インタビューを行ったという長野櫻子(annno lab)さん。インタビューで得られたエピソードにはポジティブなものとネガティブなものがあったものの、他者との関わりや支えてくれる人の存在に気づくことでコロナに負けずに生活できたというポジティブな話が、いずれの人からも聞けたとのこと。それらを踏まえて、作品の前半はネガティブな話、後半はポジティブな話を中心にまとめたいと長野さんは話しました。

それに対して、アドバイザーの米光一成さんは、つくり手の意図が入りすぎない方がよいのではないかと指摘。「ネガティブに感じていたことが年月を経てポジティブに感じることもあります。コロナ禍において、ほかの人が苦しんでいると思って落ち込んでしまった人もいたのではないでしょうか。この作品を見て、いろいろな日々があったのだとわかること自体、とてもポジティブだと思います」と語りました。

Vコンテ

森まさあきさんからは、背景についての話がありました。「Vコンテを見ると、白い背景のシーンもありますね。例えば夫婦がリビングにいるのかキッチンにいるのかによっても印象が変わってきますが、白い背景のままでよいのでしょうか」と疑問を示します。長野さんは「『回想シーン』と『現在のシーン』とでビジュアルに変化をつけたいと思っており、その方法の一つとして、『回想シーン』にだけはっきりと背景を入れて、そのほかの『現在のシーン』は白い背景にすることを考えています」と白い背景を生かしていきたい思いを伝えました。

森さん

つくりながら作品の最後の表現を検討していく

制作中の作品は、セリフがなく、6組の日常の描写が進んでいくアニメーションです。全体の25分間を飽きずに鑑賞してもらうため、劇伴やSEに力を入れたいと長野さんはいいます。一人の曲が終わったら次の人の曲につながる、組曲のようなイメージでつくりたいと説明しました。2月上旬に録音スタジオを借り、まずはピアノで劇伴のイメージをつくっていく予定です。また、登場人物は全員目を閉じている設定で作画しており、「作品の最後に目を開けさせるかどうかで悩んでいる」と長野さん。新型コロナウイルス感染症への感染リスクが完全にはなくなっていない中で、「目を開けると『コロナ禍が終わった』という表現に見えてしまうかもしれない」と話しました。

森さんは「目を開けるか開けないか、両方のバージョンをつくって比べてみてもいいのではないでしょうか」と助言しました。米光さんも、「目を開ける=コロナ禍が明ける、と理屈で考えない方がいい気もします。目を閉じている方が特殊な状態なので、鑑賞者からすると目を開けた方がすっきりするかもしれません。どちらにするかは、今後つくっていく中で作者自身が見つける結論のようなものなのでは」と話しました。これに次ぐ、作品をどのようなスタイルで鑑賞してもらおうと思っているのかという問いに対しては、美術館でインタビューの文字起こしなどの資料も一緒に展示する想定との応答。長野さんは「最初から最後まで1本の映像作品として捉えるよりも、『コロナ禍ではそういう日々があったよね』と感じ取ってもらいたいので、途中の部分だけ見る形になってもいいと思う」といいます。

米光さん

今までは研究や仕事に注力していたため制作のまとまった時間をとるのが難しかったが、今後は制作に専念していく、と長野さん。成果発表イベントでは、音が入り、今よりも状況や動きがわかるようなアニメーションを展示する予定です。アドバイザーの二人からは、イベントに向けて、またその後の作品の完成に向けて、このまま制作を進めていってほしいという言葉がおくられました。

面談の様子

TO BE CONTINUED…
アニメーションの作画・彩色・編集作業を進めつつ、作曲家とともに劇伴のイメージを検討する