海洋に漂うごみとして環境問題となっているプラスチック。なかでもマイクロプラスチックとは直径5mm以下の小さなプラスチックのことを指し、海洋生態系への影響や人体への体積なども指摘され、大きな問題となっています。これまでもプラスチックと人との関係について考察し、彫刻や映像などを発表してきた安西剛さん、今回は巨大なマイクロプラスチックをつくることに挑戦します。ペーパークラフトで巨大にしたり、バーチャル空間で非現実的な大きさを表現したり。大きくすることは「プラスチックが人間の欲望からの解放されること」だという安西さん。初回面談では、主にリサーチやアウトプットの可能性について話されました。

アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)

初回面談:2024年9月27日(金)

本来の役割を終えたプラスチックに着目

採択後の進捗として、まずはマイクロプラスチックの撮影を試みている安西剛さん。顕微鏡のようなレンズで撮影したり、フォトグラメトリ(複数の写真を合成して3DCGを生成する技術)を試すなど、高解像度で立体的に撮影することを試みています。また実際に印刷をして紙で立体物に組み立てるテストも行いました。

高さ40〜50cmに組み立てた立体

プラスチック袋に印刷する「マイクロプラスチックバッグ」の制作も構想中。「英語ではレジ袋のことを『プラスチックバッグ』といいますが、将来的に海外の美術館で展示する機会があったら、このバッグを送って美術館で出るプラスチックごみをそこに詰めてもらい展示期間を通してマイクロプラスチック柄のゴミ袋が増殖していくようなインスタレーションをつくれたら面白いのでは」と話します。

今後は国内外の海岸をリサーチし、実際にマイクロプラスチックの採取や撮影をする予定です。地元である千葉県や、太平洋と瀬戸内海の両方を有する四国地方の海岸などを検討中。また国外では上海でのリサーチのほか、フィリピンのごみ集積所「スモーキーマウンテン」やモンテンルパの事業所を考えています。モンテンルパの事業所にはプラスチックごみと食料などを交換するプロジェクトがあり、制作のアウトプットとしてNFTも視野に入れる安西さんは「ごみそのものに価値を与えることがどういうことか。参考にしたい」と話します。

「マイクロプラスチックバッグ」

リサーチする海岸は

リサーチ先についてアドバイザーの原久子さんは「国内は2〜3の海岸が候補に挙がっているが、たとえば同じ四国でも海流や地形など多様なため、しぼりすぎずいろいろな海岸からマイクロプラスチックを採取してもいいのでは」と提案しました。

原さん

安西さんからは、採取先の自治体が主催する展覧会や芸術祭への参加を視野に入れた場合に「海洋ごみが採れたことが、そのまちのイメージダウンにつながらないか」という懸念が挙げられましたが、原さんは「海洋ごみは世界中の問題。そこまで危惧しなくてもよいのでは」と答えます。アドバイザーの高嶺格さんも、むしろ採取先を増やすことで懸念点が軽減されることを示唆。さらに「リサーチは撮影より採取が大事。インプットに注力して」と伝えます。

高嶺さんは海洋プラスチックの専門家に協力をあおぐことをすすめます。「マイクロプラスチックが目視で見つからなかったからといって、きれいな海とはいいきれない。専門家と協力し、目に見えないものも採取できる方法も探ったほうがいい。巨大化の表現は目的ではなく手段。その背景には電子顕微鏡でしか見えないほどのマイクロプラスチックの問題が暗示される作品のはず。その裏付けと目的の積み重ねが重要」と話しました。

高嶺さん

アパレルとつなぐアイデア

また「ファッション業界と組むのも良いかもしれない」と高嶺さんより提案。近年、世界でもファッション業界は環境汚染産業と指摘され、対策が急がれています。原さんは一例として、10年ほどまえにテキスタイルデザイナーのヨーガン・レールが、プラスチックごみによるインスタレーションを東京都現代美術館で展示していたことを紹介しました。
「民間企業は社会課題に対しての貢献を常に意識しているし、特にアパレル業は環境問題への応答をメッセージとして発信している」と芸術祭などでの発表にこだわらず、いろいろな発表や制作方法の検討をうながしました。

最後に高嶺さんは「今回のアイデアは非常に可能性があるし、アイデアを出した時点で安西さんのもの。もし不満足な結果になったら人類の可能性が一つつぶれるくらいに思ってもらってもいい。ぜひ理想的によいかたちで進めてほしい」と背中を押しました。
「商品化も検討したい。採択時はあれもこれもやりたいと思っていたけれど、時間も限られている。やりたいことを見定めなければ」と安西さんは今後の制作への意欲を語りました。