コマ撮りや半立体、ドローイングアニメなどさまざまな手法による制作経験を持つアニメーション作家の大髙那由子さん。今回採択された『「記す」アニメーション』は、2人の息子の日々をアニメーションによって「記憶」し「記録」する作品です。子どもたちの行動を記憶から再構築することで、動画や文字には残せなかったものの記録を試みます。初回面談では、企画内容を確認しつつ、子どもたちの行動を記してきた大髙さんの日記を見ながら、具体的にどのようなエピソードを拾い上げてアニメーションにするべきか、アドバイザーと意見を交わしました。
アドバイザー:西川美穂子(東京都現代美術館学芸員)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
初回面談:2024年10月7日(月)
共感を生むためのエピソードの選び方を考える
作者の思いをどの程度込めるかを考える
自身について、「記録魔のようなところがある」と言う大髙那由子さん。15年前から書き続けている日記の延長線上で、子どもたちの記録となるような作品をつくりたいと話します。登場人物は作者の息子たちであると同時に、鑑賞者の身近にいる子どもや幼い頃の自分など、「誰かの誰か」にもなり得るのではないかと語り、アニメーションを「言葉」と捉えて新しい表現の可能性を探りたいと話しました。
子育ては最近になって少し楽しくなってきたものの、子どもが生まれてからずっと辛い状況だった、と大髙さん。しかし、知人との対話などの経験から、マイナスなことを強く主張すると、誰かを傷つけたり、子育てをしている人としていない人の壁を感じさせたりしかねないと考え、淡々と記録することに立ち戻ります。その上で、子育ての負の面も取り入れながら「あるある」「これでいいんだ」といった安心感を伝えられるような作品表現を模索していると話しました。アドバイザーの若見ありささんは、現段階では誰かを傷つけるような内容にはならなそうだと伝えた上で、淡々と描くにしても、作者の思いを入れるかどうかで作品から受ける印象が変わってくるのではないかと話しました。
作成済みのシーンの動画を見ながら面談を進めます。大髙さんは、「2人の子どもの性格の違いを歩き方と音で表現した。無駄に足を高く上げる歩き方など、こういう子どもっているよねと共感してもらいたい」と説明し、今後、多くの人が共感するような子どもの行動を日記からピックアップして、アニメーションをつなげていきたいと伝えました。
エピソードを選ぶ「視点」をあらためて考える
エピソードの選び方について、アドバイザーの西川美穂子さんは「子どもの目線と、母親の目線、どちらの視点で選んでいくのかが重要だと思う」と話しました。また、「『子どもの動き』への共感は、子育てをして、子どもを身近に見た人にしか生まれないのでは」と指摘。子どものいる人にしか共感できないような内容だと、寂しさを感じる人もいるかもしれないと話し、例えば動きよりもエピソードを重視して、より普遍的なものを語るとよいのではないかと助言しました。そして、「多くの人がはっとするような子どもの行動って何なのかということがポイントになるのでは」と語りました。西川さんの話を受けて、大髙さんは、「ただ淡々と描くだけでなく、何が起こったのかが分かるようにしたい」と述べました。若見さんは「子どもの無邪気さを強調して、鑑賞者が自分の子どもの頃を思い出すような内容も良いのでは」とアドバイスしました。
さらに面談を進めていく中で、「不平不満の多い人生だった」と語る大髙さん。自身の気持ちをどこまで主張するかというバランスに悩んできたことを告げると、西川さんは、「日常生活でうまくいくためには不満を隠すことも効果的かもしれないが、作品には出していい」とアドバイス。また、「作品の根底には状況への批評性があってほしい。それが作品をつくる動機でもあるはず」と話しました。
想像力で遊んでいる場面に注目
日々、どんな目線で子どもたちの行動を記録しているかを問われた大高さんは、「なんておバカで面白いことをしているんだろうという目線。母親の立場だとやめてって思う自分がいて、一方でまた面白いことをしてるなって思う自分もいて。残したいのは後者の方」と伝えます。
その後、大髙さんの日記を確認しながら3人で意見を交わしました。西川さんは、子どもが風呂の壁になりきったり、タオルを龍に見立てたりするエピソードに注目し、「何かを擬人化したり何かに見立てたりして遊んでいる点が特徴的。そこがアニメーション作家としての大髙さんが拾ってしまう点なのでは」と話しました。若見さんも、アニメーションにもしやすそうだと言いながら西川さんの意見にうなずきます。大髙さんは、今後そうしたエピソードに着目してピックアップしていきたいと話しました。
→NEXT STEP
エピソードの選定を行い、アニメーションの構成を検討する