キネティックインスタレーションを制作するメディアアーティスト兼HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)の研究者である森田崇文さんは、物理的な特性を変化させるマテリアルとして、液体に着目しています。本作では群ロボットなどにより磁性流体をコントロールすることで、やわらかな動きを表現する実体ディスプレイの制作を目指します。自身の作品や研究をまとめた動画や、制作中のプロトタイプを持参した森田さん。面談では磁性流体の既存のイメージや既存作品との差別化について、またコンセプトワークについて主に議論が交わされました。
アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/森田菜絵(企画・プロデューサー)
初回面談:2024年10月8日(火)
コンセプトと技術の両面でオリジナリティを探求
液体に感じる魅力を2つの作品で表現
ここ3年ほど、液体を素材に作品を制作しているという森田さん。自身の作品や研究を紹介するその様子からは、森田さん自身が流体に魅せられていることが伝わってきます。
本プログラムで森田さんが実現したい作品は2つあります。まずは群ロボットの動的配置システムを活用した案です。磁性流体で満たされたケースの下層に空間を設け、空間を磁石のついた群ロボットが動くことで、磁性流体の動きをコントロールする仕組みです。
「磁石の形状や群ロボットの動きによって生じる波紋の形状も変わる。複数のロボットの動きによって波紋で模様をつくるようなことができたら」と森田さん。磁石同士の距離の変化によって磁性流体が動く様子も魅力的だと話します。
もう一つは、群ロボットではなく電磁石アレイを用いた案です。一辺10cm程度の小型のプロトタイプを実際に動かして見せました。「電磁石に印加する電圧値の強弱や波形の変化によって、磁性流体の粘度が一見変わっているように見えるのが面白い」と森田さん。当初はこのシステムを群ロボットに組み込もうとしていましたが、消費電力の観点から作品として長時間駆動が難しいと判断し、それぞれ別で制作することにしたいと話します。
磁性流体や群ロボットなど、専門的な知識と技術を必要とする要素が複数ありますが、専門家に協力を仰ぎながら、順調に進んでいる様子です。
オリジナリティをどう出すか
森田さんは「磁性流体が持つ既存のイメージを脱却したい」として、スパイク現象(液体表面がトゲのような三角錐の形状になる現象)をなるべく出さずやわらかな形状を目指したいと言います。加えて独自性を打ち出す一案として、磁性流体の上に異なる色の液体を乗せるという案を提示。アドバイザー両者とも期待を示しました。
磁性流体が用いられたアート作品は過去にも事例があり、よく知られるのが、2001年に発表された『突き出す、流れる』(*1)をはじめとする児玉幸子らによる作品群です。アドバイザーの森田菜絵さんは「磁性流体というと児玉さんたちの作品のイメージがとても強い。新たな美意識を打ち出せるといい」としつつ、磁性流体らしさを知らなければ「らしくなさ」もわからないため、動線が必要とも話しました。アドバイザーの石橋素さんからは「磁性流体といえばスパイク現象というイメージは確かに強い。照明が変化したのか水面が変化したのかがパッと見ただけではわからないような、繊細な動きが表現できたら」と、展示環境を含めた設計の重要性を示唆するアドバイスがありました。
コンセプトワーク
アート作品としてのコンセプトワークに本プロジェクトを通して力を入れていきたい様子の森田さん。例えば、群ロボットを用いた作品では、舞台裏とも言えるロボットの動きをあえて見せることも考えていますが、「個人的には好みだが、作品として適しているのかは悩みどころ。これまでは作品制作後に考えることが多かったコンセプトワークに今回はより力を入れたい」と、その考え方についてアドバイスを求めました。
森田菜絵さんからは、作家の着目点を加味して「例えば波をコンセプトに、一般的な波のイメージを覆すような表現ができたらいいかもしれない」という具体的な提案が。石橋さんは重ねて、ケースの形状が波紋に大きく影響する点を指摘。「波に着目するなら矩形以外の筐体も検討するといい」と、コンセプトから作品の造形を考える観点が示されました。またコンセプトの考え方については、「2つ作品をつくることの意味や互いの関係性を考えてみては」と森田菜絵さん。石橋さんからは「磁性流体のここにグッときている、というポイントは作家の中にすでにある。それがなぜなのか、何なのかをもっと掘り下げて言語化するといい」とアドバイスがありました。
面談の中で、森田さんからは「コントロールしきれないもの」「自然の中で当たり前に動いているものをじっくり観察するような」「同じものが環境で違う見え方をする」など、磁性流体ディスプレイを制作する上での魅力について断片的な言葉が発せられていました。次回の面談までに、森田さんはどんなコンセプトに行き着くのでしょうか。
→NEXT STEP
コンセプトを検討しながら、作品の制作を進める。磁性流体ディスプレイの表面で異なる色の液体を動かすアイデアを試す
*1 第5回文化庁メディア芸術祭では、児玉 幸子+竹野 美奈子 のインスタレーション『突き出す、流れる』が、デジタルアート(インタラクティブ)部門で大賞を受賞。
https://j-mediaarts.jp/award/single/protrude-flow/index.html