映像作家として、アナログとデジタルの境界、感覚の粒子化をテーマに制作している五島一浩さん。文化庁メディア芸術祭では、第18回アート部門優秀賞『これは映画ではないらしい』のほか、多数の受賞・選出歴があります。団体への制作支援として採択された本企画『画家の不在』は、展覧会場の中央に「デッサンのモチーフ」と「モデルの座る椅子」を置き、その周囲に様々な大きさの凸レンズを吊るして、キャンバスにそのモチーフの像を映し出す作品です。
アドバイザー:久保田晃弘(アーティスト/多摩美術大学教授)/
和田敏克(アニメーション作家/東京造形大学准教授)
展覧会は、空間を4つのエリアにわけて展開
五島一浩(以下、五島):2020年秋に行う展覧会の方向性がおおむね決まりました。いくつかの会場を検討した中で、ほぼ本決まりになっているのが、「3331 Arts Chiyoda」です。日程は11月上旬で仮決定しました。展示プランも図面をもとに考えました。これまでの面談でアドバイスいただいたことを踏まえて検討しました結果、ギャラリー全体を大きく4つのエリアに分けようと思っています。
- デッサン教室
ここが導入部分となります。今までの『画家の不在』と近いものです。空間の中央に、いかにも絵画教室のようなモチーフを置き、その周りにレンズとキャンパスを点在させます。 - 写真館
30mほどの奥行きのある細長いスペースです。鑑賞者は、写真館を再現したセットの裏側へと入っていきます。薄暗いなかに、4000mmの超望遠レンズを含むいろいろなレンズを設置します。それぞれのレンズの焦点距離が異なるので、あちこちで映る像の大きさや明るさは変わってきます。超望遠レンズは、かなり大きな像を結べると思うので、ある意味風景画のような感覚で映せるとおもしろいかなと思います。進むうちに徐々に要素が削られ、ミニマルになっていくようにしつらえます。 - メタアトリエ
「デッサン教室」を模したミニチュアを展示し、その仕組みがわかるようにします。「デッサン教室」で鑑賞している自分たちを見ているような、入れ子状の構造にして、自分たちの感覚もこの機構の一部だという世界観を伝えられたらいいなと思います。20〜30mmほどの広角レンズを使って、実際に投影します。 - その他の映像作品
過去作品を上映し、私の作品世界を見てもらいたいと思います。2台のプロジェクターで立体映像作品を上映したり、壁に液晶モニタを設置して映像作品を上映したりする予定です。
私としても、これまでになく大きな規模の展覧会になるため、設営の方法などを詰めなくてはいけないと思っています。また、「メタアトリエ」については最近思いついたアイデアなので、これから実験を重ねていく予定です。
和田敏克(以下、和田):「メタアトリエ」で展示するミニチュアは、小さすぎると仕組みがよく分からないと思うので、もう少し大きくつくるほうがいいのではないでしょうか。映像作品を上映するエリアでは、この個展全体のコンセプトが伝わるような映像もあるといいと思います。
カタログの重要性
久保田晃弘(以下、久保田):秋の展示は、五島さんのこれまでの作品を網羅した個展になりそうですね。そうだとしたらカタログをつくるべきだと思います。
五島:展覧会で配るためのちょっとした印刷物はつくる予定でしたが、カタログまでつくれるかどうか。手が回らないかもしれません。
久保田:美術家が展示をする場合、展覧会カタログの制作は優先順位が高いと思います。五島さんがご自分をどう位置付けたいのかにもよりますが。イベントとして来場者に体験してもらうだけでいいのか、美術家のつくる美術作品としてキュレーターに見てもらいたいのか。キュレーター側からすると、展覧会後でも、カタログが送られてくるとインパクトがあると思います。会場に来られる人は限られているので、今後、一人でも多くの方に五島さんの作品を見てもらうためにも、カタログは重要だと思います。
五島:当初は『画家の不在』のみを展示しようと考えていたのですが、展示内容を検討しているうちに、確かに個展の色合いが強くなってきました。過去作品を全て使った展示をやりたいという野望はあったのですが、半分ここで実現しそうな気がします。
久保田:だとしたら、なおさらつくるべきだと思います。何か残さないと、とてももったいないように感じます。あとできればバイリンガルで出版したいですね。
五島:ほかの展覧会では、会期中に予約を受け付けて展覧会終了後に販売するケースもありますね。
久保田:それでももちろんいいと思います。
和田:その方法なら、会期中に写真を撮って記録することもできますね。カタログがあれば、後から振り返って、この展覧会をひとつのコンセプトを通して捉えられるようになると思います。リーフレット的なものならネット印刷でも制作可能ですが、編集作業に力を入れて、ある程度のものをつくる場合は、製本などもそれなりのものになってきますね。
久保田:昨年、この事業で採択された佐々木遊太さんの『「どうぞどうぞ」をしらべる』も最後にカタログをつくっていたのですが、とてもいい感じで出来上がりました。佐々木さんの作品は、説明しないとわかりにくい内容だったので、開き直って、むしろ展示よりもカタログをおもしろいものにしよう、というくらいの勢いで。
五島:写真を撮っても、モチーフとレンズとキャンバスの位置関係がよくわからないというのがひとつの悩みどころです。科学本のように理屈で攻めつつ、状況を想像してもらう感じがいいかなと思います。QRコードから映像が見られるようにすることもできると思います。
作品の仕組みを伝える工夫
和田:3月の成果発表の展示は、どのようなものを考えていますか?
五島:本番の実験と捉え、「メタアトリエ」の、さらに小さな模型を展示したいと考えています。
久保田:秋の展示の告知を大々的に行ってもいいと思います。そして、作品のメカニズムは可能な限り丁寧に説明したがよさそうです。来場者が頭のなかで想像して、何だか面白そうだけど、ちょっとわからないところもあるから展示に行ってみようと、思ってもらえるといいのかな?カメラの内部の仕組みも、今はデジカメの時代なのでわからない人が多いと思いますから。
五島:これまでの展示でも、投影された像を見た来場者から、「これ液晶ですか」「プロジェクターどこですか」と聞かれたことがありました。像が映し出されていることについて、一般的にそのような思い込みが強いのかもしれません。レンズを動かすとピントも動くので、そこで初めて「あれ?」と気付くような反応でした。導入部分で、どのようなテクノロジーが介在しているかをはっきり伝えないと「何か映ってるな」で展示を見終わる方もいるかもしれません。
和田:3DCGで光の軌跡を描き、画像や映像で仕組みを解説する方法もあると思います。
久保田:この空間自体がカメラなんだ、カメラの内側に入るような展示だ、といういい方もできますね。何かしらキャッチーに伝えられる方法があるといいかなと思います。展覧会のタイトルは『画家の不在』のままでいいのでしょうか。もう少し「写真」につながる言葉が入ってきた方が、わかりやすくなる気がします。
五島:その方が来場者の心に届くかもしれません。過去の展示でも、カメラが好きな人や、フィルムカメラで何かしたいと考えている人には、とてもおもしろがってもらうことができました。自分で自分の作品を考えていると、ぼんやりした、思わせぶりなものになりがちですが、来場者の立場を考えたときに、もう少しわかりやすく興味を引く何かが必要ですね。
久保田:単純な仕組みだけれど、体験してこそおもしろいことが、3月の成果発表で伝わるといいですね。五島さんのことを全く知らない人にも会えるチャンスなので、ぜひ活用してもらえたらと思います。
和田:小さな模型を展示するのはいいかもしれませんね。空間を具体的に見せることで、期待度も高まると思います。
―今後は、秋の展覧会を見据えた上で、成果発表の展示内容を検討していく予定です。