キネティックインスタレーションを制作するメディアアーティスト兼HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)分野の研究者である森田崇文さんは、物理的な特性を変化させるマテリアルとして、液体に着目しています。本作では磁性流体をコントロールすることでやわらかな動きを表現する実体ディスプレイの制作を目指します。作品のテーマやコンセプトを見定め、中間面談で『MorphFlux』というタイトルを発表した森田さん。その後制作は着実に進行していますが、展示予定の大型サイズまで拡張するにはまだいくつかのハードルがありそうです。面談では進捗や今後の課題を共有し、また最終面談ということで、クリエイターの今後についても話されました。
アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/森田菜絵(企画・プロデューサー)
最終面談:2025年1月17日(金)
見定めたテーマから導き出す作品の見せ方
新タイトル『MorphFlux』
初回面談でのやりを経て、森田さんは中間面談で本作のタイトルを『MorphFlux』とすることを発表しました。変形と流動を表すMorphとFluxを組み合わせた造語によるタイトルは、形や流れが混じり合い変化する様を表現しようとする本プロジェクトを端的に表しています。「複数の要素の相関や連動、あるいは互いに邪魔し合う様子など、変化の中間のあいまいな部分にフォーカスしたい」と森田さん。
駆動源として電磁石を用いた作品と群ロボットを用いた作品、2つあったアイデアのうち、成果発表イベントに向けて実装するのは電磁石を用いた作品に絞ることにしました。サブロク(910×1820cm)サイズの面に最大11×29個の電磁石を配置し、その一つ一つをピクセルに見立て、319ピクセルの大型実体ディスプレイの作品をつくろうとしています。「電磁石だけでも相当な数。揃えるだけで一苦労だった」と森田さん。また磁性流体のマテリアルとしての特性についても時間をかけリサーチし、スパイク現象(トゲトゲ状の突起)が発生しにくく、波紋が広がりやすい特殊な磁性流体を選定しました。今後は大型化する装置の実装と並行し、ライティングの検討やディスプレイに表示するアニメーションの制作を進めます。

大型サイズの作品を作るうえでのハードル
作品の大きさには期待が高まるとともに、想定されるハードルも上がります。「実際の規模で事前に実験は可能か」「アニメーションの長さは」「波の動きは計算でシミュレーション可能か」など、アドバイザーからは具体的な質問が寄せられました。
アドバイザーの石橋素さんから11×29というピクセル数の理由について問われ、「具体的な数は使用できる電力量から定めたが、中心にピクセルを置くために縦横ともに奇数個にした」と森田さん。中心にピクセルを置きたい理由は、作品としてピクセルの全体と個のそれぞれの表現を見せたく、中心点を決めると個として見せる時に視線を集めやすいからだと言います。
また、森田さんが持参したプロトタイプは透明なアクリル板で囲われ、側面には磁性流体が上下した跡がうっすらと残っています。アドバイザーの森田菜絵さんがその点を指摘したところ、石橋素さんは「側面や底面のアクリル板は透明じゃなく、黒などでもいいのでは」と提案。「なるほど……。黒だと磁性流体と同化して、そこに液体があるのかどうかもわからない状態からスタートできる。見てみたい! 実験してみます」と森田さん。よりよい見せ方が想像できたようです。

ものづくりを続けるプレイヤーであり続けるには
成果発表イベント後の展開について、「群ロボットを使った作品もやはりつくりたい。調べる中で知った特殊な電磁石も使ってみたいし、詳しくなればなるほどつくりたいものは増える。今後もプレイヤーとして作品をずっとつくっていきたい」と森田さん。現在は助教として大学で教鞭をとりながら制作や研究に取り組む森田さん。今後も森田さんが制作活動を続けていくにはどんな道があるのか、面談の終盤は人生相談となりました。
森田菜絵さんは「大学という場があることは、研究費や場所などの面で大きなメリットでもあるし、展示制作の現場には、工学的なスキルと芸術への興味の両方がある人は貴重」とコメント。森田さんと同じく工学畑出身の石橋さんは、「会社をつくっている人もいれば大学で教えながらという人も、フリーランスで請負仕事もしながら制作してる人もいる。どの道がベストかはわからないが、アカデミックな活動と商業的な活動、両方できるのが一番いいと僕らは考えていて、仕事をしながら文化庁メディア芸術祭に応募するといったことを続けていた」と自身や周りを振り返ります。二人のアドバイスを受け森田さんは「ものづくりをするからには、映像や画像ではなく、実体としての物理展示にこだわりたい。多くの苦労はあるものの、実物を見ることで生まれる良さや鑑賞者の気づきを信じている。今後も自分自身が楽しみながらものづくりを続けていきたい」と意気込みを見せました。

TO BE CONTINUED…
成果発表イベントに向けて作品を大型サイズに拡張。ライティングの検討やアニメーション制作も進める