『Inner Light — Dialogue through Two Hands —』は、彫刻の手法を用いてサイトスペシフィックな作品をつくるアーティスト、木戸龍介さんによる、アーティストとロボットアームが同じ素材上で彫刻を交互に施すことを試みるプロジェクトです。ロボットアームとの共同制作を通して、AI やロボットと共存する社会における人間の役割、創造の意味を模索し問い直すことを目指します。
初回面談には木戸さんと協力者の鶴田航さんが二人で参加し、技術的なアプローチの方法を鶴田さんの過去の活動をベースに解説。また他者との共同制作に期待することや、これまでの制作とのつながりなどについて話しました。
アドバイザー:高嶺格(美術作家/多摩美術大学彫刻学科教授)、原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)
初回面談:2025年9月22日(月)
ロボットアームとの共同彫刻
機械との共同によって、フィジカルの必要性を探る
細密な切削加工ができる電動工具を用いた彫刻を主な手法として、個人制作をベースにしてきた木戸さん。しかし近年、タイや瀬戸内など、国内外の芸術祭に参加する中で、現地の職人など、制作に他者が加わることが増えたといいます。自分以外の介入による変化に興味を抱いたことや、鶴田さんとの出会いをきっかけに、ロボットアームとの共同作品制作という今回のプロジェクトが持ち上がりました。「一緒にやる相手が機械になるとそこにどんなコミュニケーションが生まれるのか。エラーも含めて体験して、フィジカルにつくることの意味や必要性などを考えるきっかけをつくりたい」と木戸さん。

心強いコラボレーター
ロボットやプログラミングなどに明るいわけではない木戸さんがこのプロジェクトを立ち上げる契機になったのは、デジタルファブリケーションに長けたコラボレーター、鶴田さんとの出会いです。建築をバックグラウンドに、ロボットアームやCNCルーターなどを用いて既存の建築技術を再解釈する試みを行っている鶴田さん。コンピューター制御機器の導入について、「効率化が目的になりがちだが、表現の幅を広げる可能性をも持っている」として、これまでの活動を紹介しました。壁面へのショットクリート(コンクリートの吹付施工)をロボットアームで行ったプロジェクトでは、プログラム通りに遂行するだけではなく、随時吹付面をスキャンしフィードバックを得ることで、設計と施工段階との差分調整を行ったといいます。「同様の手法で、木戸さんが彫ったものをスキャンして、それをもとにロボットが彫る。それをもとにさらに木戸さんが手を動かし……という、フィードバックループが構築できる」と、構想を語りました。

ロボットアームを操るには、専門的な技術や知識が必要です。アドバイザーの高嶺格さん、原久子さんは鶴田さんへ、さまざまな質問を投げかけました。その上で「今回使用するロボットアームは僕が過去に使用したものと全く同じもの。動かし方はほぼ100%心得ている。ハード、ソフトともにプロトタイピングまではすぐにたどり着けるはず」と鶴田さん。ベースを整えた上で、アーティストとロボットのインタラクションをどのように技術的に構築するか、あるいは哲学的にどう解釈するかなど、深めることに時間をとりたいと話します。非常に心強い発言に、一同安堵しました。

他者との共同における葛藤
他者を制作に介入させることに、木戸さんはどのような期待を抱いているのでしょうか。高嶺さんが「これまでの制作で、あの人がつくったところはいいけど、この人のはイマイチだ、など、葛藤はなかったか」と尋ねると、「もちろんあった」と木戸さん。「ただ、手伝ってもらう以上、許容範囲は広く持つ必要はあるし、出てきたものの中に面白みもある。ここいいね、これならあそこに使おう、など、うまく混ぜ合わせることで、そこでしか、彼らとしかできないものができたと思う。許容しつつ、コンセプトや方向性がブレないように舵取りするのが自分の役割」と振り返りました。高嶺さんもまた、舞台作品や映像作品をつくる上で他者との共同は多くあるといいます。「イメージとは違っても、その人なりの面白さがある。アートとして、開かれた態度にも価値があるだろうと思って、理想を犠牲にしながらも許容する選択はよくある」と、木戸さんの姿勢に共感を示しました。

まずは機械とのコミュニケーションを楽しむ
タイでは米倉、瀬戸内では家船という既存のモチーフをベースに、そのモチーフや地域が持つ文脈や歴史を踏まえながら制作を行ってきた木戸さん。これまでの活動を踏まえ、原さんは「今回もベースになる造形や、つくる場所などのプランなどはあるのか」と尋ねます。木戸さんは「まずは人と機械とのコミュニケーションを通して表現の可能性を探る、それが一番」と、これまでと異なるアプローチに意気込みを見せ、その上で「文脈を持つものに乗せていくのは、さらに次のステップになると思う。支援期間中にそこまでたどり着くかはわからないが、ゆくゆくは絶対にやりたい」とその先にも言及しました。
この日、ちょうどレンタルのロボットアームが届いたという木戸さん。「まずは技術の無駄遣いもしてみようと話していて。ロボットにお茶を入れさせたり、字を書かせたり。それをスタートに深めていきたい」と期待感を滲ませました。

→NEXT STEP
ロボットアームで実験を重ね、その様子を記録撮影する