里山や山林といった風景を題材としながら、絵画とアニメーションを制作してきた山中千尋さん。彼女が今取り組んでいるのは、自らが描いた絵から生成AIにより時空間の拡張を行い、それに再度自らが彩色するというプロセスでつくられるアニメーションです。1フレームごとに永遠の時間と記憶が内包された、「今この一瞬にある天国」を映像化するためには、どう制作を進めれば良いのか。AIの活用などをめぐってアドバイザーから助言が与えられました。

アドバイザー:西川美穂子(東京都美術館学芸員)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

初回面談:2025年9月30日(火)

制作状況の進捗

山中さんは自身の制作動機についてアドバイザーに説明します。
「私はもともと学部生のころは風景画を描いていました。ただ風景は自分にとって表現すべきモチーフである以上に、紙の上で起こる知覚の体験でもありました。その「風景に出会う」感覚、絵画が完成するまでの、絵の具が混ざりながら移ろい生まれゆく風景を鑑賞者に共有したいと思い、映像の制作を始めました。はじめのころはアニメーションをつくるというよりは、絵を素材として、絵画空間を表現するというところにとどまっていました」

After Effectsを使い、3Dレイヤーで奥行きを付けたり、3Dレイヤーや被写体深度を使用し絵画に空間性を持たせる山中さんの試みは、東京藝術大学の大学院に入って以降、絵が鑑賞者の眼前で移ろい、風景を生み出していく効果を表現するための試行錯誤を深めていきます。自身で描いた絵の具のテクスチャーをMayaに取り込み、シミュレータをかけて絵の具が混ざり合うような意図しない動きをつくったり、3〜7層ほどの抽象的なアニメーションを同時に再生することでレイヤーの前後で色が混ざり合い、作家のコントロールを越えた風景をつくりだす実験にも取り組んできたと、これまでの制作を振り返りながら紹介します。
山中さんのこれまでの制作について、アドバイザーの若見ありささんは「テーマと手法を一致させつつも、挑戦をしている」と評価します。

プレゼンテーション資料より。色の混じり合う効果の実験

今回のプロジェクトと課題

続いて今回取り組む新作アニメーションについて話題は移っていきます。
「今回のプロジェクトは、1枚の自分の描いた絵から生成AIで絵の外側の空間を生成、 数秒間の映像生成を行い、その映像に対して、自分がまた手を加えながら描き進める手法をとっています。こうしたアプローチを取ろうと思ったのは、AIの生成するイメージが、自身にない匿名的な記憶から生まれる風景であるように感じたことがきっかけです。自らの記憶の外側の風景と繋がるように、生成AIと協業しながらアニメーションをつくることにしました」と山中さんは説明します。さらに制作についての悩みも、アドバイザーに共有されます。

AIとの協業で制作した手描きの風景画

「自身のこれまでの実験の中で、アニメーションの24フレームの中で再現しようとするとまだ絵の連続再生に見えてしまうところがあります。そのフレームの壁を越えていきたいという思いもあり、今回はAIを使っています。生成された映像の中にどんどん時空間を折り重ね、フレームの中を膨張させたいと思っているんですが、それを実現するためにAIを使いこなせている気がしません。抽象的なタッチを拾ってくれなかったり、そもそもAIの生成映像がパターン化しているような気もします」と課題を打ち明けます。

アドバイザーの西川美穂子さんは、そういった懸念に対し、「他の人の絵を素材にしてみたらどうかなど、いろんな実験をすると良いのでは」と提案します。同じくアドバイザーの若見さんは「同じソフトだと似てくると思うので、違うものを使ってみるのも良いかも」と述べながら、制作中のアニメーションにある人間や羊の自由な動きにAIを用いることの効果を認めます。

西川さん

続けて若見さんは最新作である『霞始めてたなびく』(2025)が季節をテーマにしていることに触れ、今回はどう構成するのかを問いかけます。
山中さんは「作品の時間を10分と予定していますが、コンセプトを決めてから構成を考えているので、もっと短くなるかもしれません」と答え、テーマにふさわしい構成や上映時間を検討する姿勢を示しました。

若見さん

展示へのアプローチ

面談では他にAIに対する技術的なサポートや専門家へのアプローチについても話されましたが、最後に話題になったのは展示でのプレゼンテーションについてでした。山中さんは自身が芸術祭に参加した際、上映と違って作品の見て欲しいところを観客に見てもらえなかった経験について触れ、成果発表イベントでは展示としてどう見せるかに取り組みたいと述べます。それを受け若見さんは「四方八方に投影して風景につつまれる感じだと作風とマッチすると思います」と述べ、西川さんはそれに同意を示しつつ「映像を覗き込むような提示の仕方も面白いのではないか」と他のパターンも提案します。

山中さんはそれらに真剣に耳を傾けながら、終始和やかに進行した初回面談は終了しました。