実写やコンピューターグラフィックス、電子工作などの技術を組み合わせ、グラフィックや映像、彫刻、メディアアート作品の制作に取り組む小野龍一さん。現在は大学院の博士課程に在籍し、彫刻などの実物体の見え方にVFXのような効果を付与するオリジナル技術「Tangible VFX」を研究。『VoF』(=Vibro-Optical Field)ではその表現をより拡張させることを試みます。12月に大阪で上映・展示会が開催された国際的なクリエイティブアワード「ISCA2025」で初めての作品展示を行い、手応えを得た小野さん。最終面談ではその経験を振り返りながら、成果発表イベントに向けてシーケンスやオブジェクト、そしてインタラクティブな展開について議論がなされました。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)/織田笑里(404 Not Found ジェネラルマネージャー/チョコとマシュマロ合同会社代表)

最終面談:2026年1月15日(木)

初展示に手応え

2025年12月初旬、小野さんは大阪で自身初の作品展示を実施しました。この支援事業でかたちにしようとしている作品の前身とも言える作品で、デジタルコンテンツ部門で見事最優秀賞を受賞。「200人ほどの人に見てもらい、審査委員や一般の来場者にも面白がってもらえた」と小野さんは大きな手応えを得たと言います。

「ISCA2025」での展示の様子

制作の進捗については、振動ユニットの量産に手こずっている様子です。「基板に一度採用した電源パーツの仕様がちょっと怪しく、より質の良いものに変えた」とこれまでの経緯を話しました。基板にオーディオアンプ、振動アクチュエーターなど、同一のユニットを81個(9×9)量産する必要がある本作。パーツの選定を慎重に行なったことで想定以上に時間がかかったものの、ここから急ピッチで仕上げていくと意気込みます。アクチュエーターは小型ながら振動幅が大きいものをセレクトできたと話し、動画と実物で振動の様子をアドバイザーに共有しました。

ユニットに含まれるパーツを並べる
振動アクチュエーター

シーケンスの検討に時間をかける

振動させるオブジェクトの形状については、現象を捉えやすい抽象的な形状と、ジオラマのような具象的な形状、どちらの方向性を選ぶかまだ決めかねていると小野さん。加えて、成果発表イベントでの試みとして、アイトラッキングを用いたインタラクティブな仕掛けを考えていると話しました。

アドバイザーの石橋素さんからは「光源が一つでも個々のオブジェクトの色ずれの生じ方は変えられるのか」と、複数のユニットが並んだ状態を想定した質問がありました。「オブジェごとに振動周期を変えることで変化させられる」という小野さんの答えに、「であれば、複数並ぶオブジェクトが端から少しずつずれていく、といった演出もできる」と石橋さん。昨年度の創作支援プログラム採択クリエイター、森田崇文さんによる磁性流体を用いた実体ディスプレイとの共通点に触れ、「このプロジェクトも、パターンやシーケンスをどうつくるかが重要。装置が整ったら、シーケンスの検討に時間をかけられるといい」とアドバイスしました。

論文の論点から見せ方を検討

インタラクティブな仕掛けとして検討中というアイトラッキングについて、小野さんが考えているのは、鑑賞者の一人の視線を検知し、それを振動ユニットの動きに反映させるというものです。「その人が見ている部分は、ピントが合っているかのように色ずれが起こらず、その周囲がボケる(=色ずれが起こる)ようなイメージ。周囲の人にはその人の視線の移動が見えることになるのでは」と話します。

プロジェクトの目的の一つに論文発表があるという小野さんに、アドバイザーの織田笑里さんは論文の論点を尋ねます。「三次元にボケを再現することによる視線誘導の効果や、ボケの階調や段階がどの程度の振動の差分で生まれるのかを検証したい」と展望を語る小野さん。織田さんは、「成果発表イベントも検証の場のひとつと捉えて、アイトラッキングの機能は実現すると良いと思う。オブジェクトの形状も、視線誘導の実験・実証として捉えるならシンプルな方がいいのでは」と、要素の選択を論文から逆算して考えることを提案しました。

左から、石橋さん、織田さん

色収差はいつからエフェクトになったのか

また、石橋さんは論文を深めるアイデアとして、色収差の歴史をリサーチすることを勧めました。「デジタルエフェクトとして見慣れているがゆえに、それを三次元に起こしているこの作品を新鮮に感じるが、元々はレンズの光学的な現象として起きることだったはず。アナログVJやアナログエフェクトの文脈にもつながるのかもしれない」と石橋さん。「特撮の文脈にもつながりそう。レンズの文脈から生まれたエフェクトを、レンズなしで見られるのが面白いところ」と、小野さんも同意しながら、このプロジェクトの独自性を改めて捉え直しました。

小野さんは今後の展望として、「個展や、ダンサーとのコラボレーションなどにも挑戦してみたい。ディスプレイをつくっているような感覚でもあるので、ほかの人にも使ってみてもらえたら」と話します。「アニメ関係の展示などで需要がありそう」と、アドバイザーも後押ししました。