現代のメディア環境における身体と声の変容をテーマに、制度化された音楽形式の再構築を試みる小宮知久さん。いま着目しているのは、言語と歌の関係です。『合成言語「KOE語」を歌うための装置《koekko》』では、自作言語「KOE語」を用いて、言葉から歌が発生するプロセスの生成を試みます。2月のフィンランド渡航に向けて急ピッチで準備を進めている小宮さん。装置の形状や構造、システムが固まり、プロジェクトの最終形態が見えてきたところで、改めて、当初のステートメントを見直し、プロジェクトの目的に立ち返る作業が行われました。

アドバイザー:石橋素(エンジニア/アーティスト/ライゾマティクス)、西川美穂子(東京都美術館学芸員)

最終面談:2026年1月15日(木)

フィルターに地域性を取り込む

装置の形状や構造、歌を生成するシステムについて、まずは進捗が報告されました。装置の支柱には細身で強度のある素材を使い、ガラ袋のような素材をつなぎ合わせた透過性のある布を天面に張る想定です。センサーや音響システムは装置の根元や支柱に組み込みます。「この装置自体が声帯や口のような、一つの感覚器官のイメージ」と小宮さん。装置が具体化したことで、作品のイメージがさらに膨らんでいる様子です。

モニターにイメージ図を写し、装置の構造を説明

パフォーマーの声を素材に、その場で複数のフィルターをかけ変調したもう一つの音声をスピーカーから流し、人と機械による音声の掛け合いから新たな歌を生成することを試みる本作。変調のフィルターは、大きく分けて二つのパターンで検討しているといいます。一つは、その地域の特性を示す緯度経度、温度、湿度といった数値を用いる方法です。「寒い地域には口を大きく開けない言語が多い、湿度が高い地域では音程の振れ幅が大きいなど、言語には環境条件と結びつく特徴がある」と学説を紹介する小宮さん。フィルターによってその特徴を強調したいと話します。一方で、これらの数値はパフォーマンス中にはほとんど変動しないため、よりダイナミックに変化する数値として検討しているのが、距離センサーによる布の揺らぎの検出です。「風やパフォーマーの動きによる布の揺らぎを、音程等に反映させられたら、パフォーマーが意図を持って機械とインタラクションできる要素にもなりうる」といいます。「光センサーもいいかもしれない」とアドバイザーの石橋素さん。雲の流れや木漏れ日などを捉えて変化が出せるといいます。「フィルターの度合いなど、ソフト面の調整は後からでもできる。早く装置を組んで実際にパフォーマンスをしてみてほしい」と、実機による検証を急ぐことを勧めました。

ここで、小宮さんが実際にマイクを装着し、音の変調をデモンストレーションしました。小宮さんの声に少し遅れて、声色が異なる音声がスピーカーから流れます。一つの音声をもとに、ずれながら生まれる旋律を、小宮さんは「ヘテロフォニー」と表現しました。

マイクをつけてデモンストレーション

フィンランドでのパフォーマンスを記録・展示

2月中旬にフィンランドに渡航し現地でパフォーマンスを実施予定の小宮さん。映像作家も同行し、記録撮影のフォーマットを決める予定です。直後に控える成果発表イベントでは記録映像などを展示しながら、パフォーマンスをメインで見せることを想定しています。また装置の実物も展示し、来場者に音声変調を体験してもらうことでフィードバックを得られたらと、期待を寄せています。

アドバイザーの西川さんはパフォーマーの振る舞いを想像し、「どんなモチベーションでパフォーマンスをスタートするのか」と問いかけます。「これまでの経験上、いきなり歌うのは難しいため、まずは詩を朗読し続けることからはじめたい」と小宮さん。朗読と歌の中間的な発話から、装置とのインタラクションに展開させたいと話しました。

西川さん

既存の言語を解体し、歌を再構築する

面談終盤で小宮さんがアドバイザーに吐露したのはプロジェクトの見せ方についての悩みです。「言語が単一化・消滅していく現代に対して、オルタナティブな言語感を提示したい」と自身のモチベーションを言語化しつつも、その説明がプロジェクトをわかりやすく伝えることに繋がるのか、疑問が残る様子です。アドバイザーの二人は、言語の意味の重要性が採択当初よりも希薄になっていることや、ヘテロフォニーとポリフォニーの違いなど、さまざまな視点から疑問を投げかけ、ステートメントの整理を試みます。

小宮さんは議論の中でプロジェクトの発端を思い返し、「テーマは新たな歌の再構築。歌をつくるために言語からつくってみようというのが最初の発想だった」と、言語へのモチベーションの根幹に歌をつくるという目的があることに立ちかえりました。

「今ある言語を解体して、新たな歌をつくるための『KOE語』。声の二重性を生み出そうとしているのではなく、言語の発生と同時にある歌の発生に近づこうとしている。そこを伝えられるといい」と西川さん。石橋さんは「洞窟で反響する声と遊んでいたら歌が生まれた。そんなイメージに近いのでは」と例えます。両者の言葉に、小宮さんも腑に落ちた様子でした。

石橋さん