メーカーで技術戦略のためのリサーチやコンテンツ開発をする傍ら、個人活動として「テクノロジーと現実のギャップに生まれるおかしみ」を軸に作品制作している大西拓人さん。文化庁メディア芸術祭では、作品『Contact』が第21回アート部門で審査委員会推薦作品に選出されています。本企画『ドローンが来ると、風が吹く』(仮)では、ドローンが飛び立つ際に風を起こす特性を用いた作品群を制作します。
アドバイザー:磯部洋子(クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/タナカカツキ(マンガ家/京都精華大学デザイン学部客員教授)
―中間面談はZoomを使って行いました。
人間からテクノロジーへの「提案」を考える
大西拓人(以下、大西):初回面談後は、作品としてどう表現するかを考えるために、ドローンと風についてシンプルに考え直しました。例えば、枯れ葉の上にドローンを飛ばすと「ドローンの足跡」ができるかもしれない、ドローンで洗濯物を乾かせるかもしれない、といったアイデアです。またドローンの風で風鈴やTシャツを動かしてみる実験なども行いました。ただ、風を起点にしたアイデアや実験に対しては、突き詰めていくほどの価値を感じることができませんでした。そこで再度アイデア出しのアプローチを見直し、過去作や自身がおかしみを感じる現象から、「おかしみの見出し方」を考えることにしました。そこで気づいたのが、テクノロジーにおける「エラー」を機能として捉え直し、人間の文化や感覚に見立てることが、見出し方のひとつの型になっているということです。そして、人間側がテクノロジー側に対して何かを提案する視点がポイントになるのではないかと思いました。
そこで今回は、僕からドローンへの提案として、風を「触覚器」として利用できるのでは、ということを作品作りの起点として置き直すことにしました。着目したところはドローン自身が起こす風に煽られて飛行が不安定になることです。多くのドローンは、カメラと赤外線によるセンサーの情報をもとに、自律的にプロペラの回転速度を変えて飛行をコントロールしています。人間に置き換えると、センサーは視覚や聴覚、ジャイロは三半規管に当てはまるのではないでしょうか。ドローンが風を起こすことで近くの物体(例えば風船やTシャツ)が動き、さらにその反応を得ることで、物体の位置や形などを捉えられるのではないか。そうした考えをもとに作品制作を考えています。今後は、2021年2月初旬に京都で展示を予定していて、そこではタイトルを『Touchless Touch』とした、実験的な作品シリーズを展示する予定です。
―作品のイメージ画像を見ながら話を進めました。
大西:ひとつ目の作品『Touchless Touch #1』は、空間の中央にある風船を、四方からドローンで動かす作品です。4台のドローンが、プログラムが同じでもそれぞれ異なる動きをするのではないかという検証です。ふたつ目の作品『Touchless Touch #2』は、上下の位置関係でドローンを飛行させ、お互いの風によって影響し合う様子を見せる作品です。この2作品をどのくらい分かりやすくすれば鑑賞者の心に響くかを見極めたいと思います。
どういう表現で伝えるか?
タナカカツキ(以下、タナカ):大西さんのアプローチは、おかしみを発見してから仕組みをつくるのではなく、仕組みをつくってからおかしみをつくろうとしている点で興味深いです。ただ、鑑賞者にとって、ドローンが自身の風で干渉を受けるところを「おかしみ」まで昇華させることは難しいのではないでしょうか。直感的に分かる「おかしみ」に着地させてほしいと思います。いろいろと実験していること自体は興味深いです。例えばドローンでTシャツを乾かす、ということから作品化するとしたら、何台ものドローンでTシャツを乾かしたあと、大西さんが着て「乾いた!」と言うなら分かりやすいかもしれません。ドローンは普通そんなことで使わないので。ですが、そういう作品をつくりたいわけではなさそうですね。
大西:そうですね、おもしろそうですし盛り上がると思う一方で、それ以上のものにはならないとも感じます。作品によって、遠回りでも何か社会に還元できる形を探っていきたいです。本来のドローンの使い道から外す視点は大事だと思いますが、鑑賞者に伝える道筋づくりが難しいと感じています。
磯部洋子(以下、磯部):Tシャツを乾かすというのは、意図的に笑いを狙っているように感じます。これまでの大西さんの作品は、偶然発見した現象がもとになっていますよね。それが見方によってはおもしろく見えるということが、ポジティブなメッセージにも感じられますし、分かりやすかったと思います。
大西:Tシャツや風鈴など、検証した題材がどれも恣意的になっているところは気になっています。もともと見つけたおかしみ自体の表現からどんどん離れてしまったと感じました。
磯部:技術ありき、テーマありきでプロジェクトがスタートすると、最初にいいと思っていた部分が途中で削られても、そのままリリースせざるを得なくなることがあります。ただ、探求の果てに全く違う視座が見つかる可能性もあるので、引き続き試行錯誤してほしいです。プロセスによって問いを投げることもできそうですが、やはり表現として心が震えるようなところに挑戦してほしいと思います。
ロジックからのアプローチで作品化する
タナカ:恣意的な世界の中で偶然発見するテクノロジーの別の能力というよりは、大西さんが異常なくらい徹底的にやっていることの熱量が作品になるのかなと思っていました。ロジックからアプローチする大西さんは、稀有な存在だと思います。作品化できるとすれば、「ミラクルが起こること」「大西さんが異常なまでにこだわって取り組む姿を見せること」のふたつのパターンがあると思います。
大西:自分で自分の熱量を測るのは難しいので何とも言えませんが、ロジカルなところに熱量を込めがちではあります。過去作も、ロジカルな下地をつくった上で表現を見つけてきました。となると、ミラクル待ちになってしまうのかもしれませんが。自分が見出したおかしみを、どのように広く伝えるかたちに落とし込めるか、意識して進めたいです。
磯部:そこを突き詰められるところがまさに大西さんワールドで、鑑賞者の心を動かすポイントであると私も思います。
タナカ:このようにドローンを捉えている人は、大西さん以外にあまりいないと思います。引き続き実験を行い、作品表現に着地していただければと思います。
―今後は、京都での展示に向けて作品表現のあり方を具体的に検討していきます。