令和2年度メディア芸術クリエイター育成支援事業「国内クリエイター創作支援プログラム」に採択された国内9組のクリエイターが、本事業で得たものについてコメントした映像を公開しました。
令和2年度の成果発表イベント「ENCOUNTERS」では、2021年3月5日(金)〜14日(日)の期間、東急プラザ銀座にて各プロジェクトの紹介展示をおこなっています。
〈プロジェクト紹介展示〉
会期:2021.3.5 FRI – 14 SUN(11:00 – 19:00)
会場:東急プラザ銀座 3F・4Fみゆき通り側エスカレーター横、10F・11Fパブリックスペース
主催:文化庁
協力:東急プラザ銀座
企画・運営:メディア芸術クリエイター育成支援事業事務局[CG-ARTS内]
入場無料
細井 美裕
タナカ カツキ:
視界を遮断された世界、その他の感覚器からの情報で、わたしたちはどのような空間を想起することができるのか、わたしたちの「感覚」の世界は、新しい技術によってコントロールされ、どんな揺さぶりをかけられるのか、たいへんおもしろいテーマだなあと思います。技術の進歩によってその表現は変化してゆくと思いますが、それもまた違った楽しみを見つけることができるテーマだと思います。周りの技術者の支えもあり、細井さんは「私はただ楽しんでいるだけだから」といささか謙虚な発言をなさってましたが、ものづくりはいかに楽しむかだと思います。楽しさがカラダから溢れ出てる人に、人は集まり、エネルギーの交換があり、それがさらに鑑賞者を巻き込んでゆく創作になると思うので、堂々と胸を張って創作に挑まれることを期待します。
山本 加奈:
人間の五感、なかでも聴覚と視覚の関係性や、そこから起ち上がる人間の想像力、『ON PAROLE』で最も興味を引いたのは深淵なテーマ性でした。細井さんのリサーチはテクニカル的な領域だけでなく、認知心理学や脳科学、認知行動学と多岐に渡っていました。人は五感からのインプットにおいて、約85%を視覚から得ていると言われていますが、その見ている世界は本当に正しいのか?このプロジェクトを並走していくうちに、そういったことに気づかされます。視覚を遮断し、代わりに意識を向かわせた聴覚で見る世界とはどのようなものになるのか?聴覚が結びつくのは記憶なのか触感なのか、はたまた深層意識へダイブ?興味をかきたてられるインスタレーションに期待しています。
牧野 貴
山本 加奈:
実験映像作家から美術家へ、自身の立ち位置をトランスフォームさせるべく挑む『Echoed』。幾重にも折りたたまれた高解像度の映像は、牧野さんが歩んできた作家人生の集積のようにも感じられました。制作進捗の過程では、ゆらぎながら時をきざむ映像に溶けていく「記憶」や「残像」を見るようでした。それは今の時代と結びつき、自然への畏怖の念や、ノスタルジックな気持ちに幾度となく襲われました。鑑賞者のみなさんはどのような体験をされるのかとても楽しみです。より純度の高い没入感を創造するために取り組んできた牧野さんの試行錯誤が、展示本番でどのように結実されるのか期待が膨らみます。美術家としての牧野さんの活動を今後も追いかけたいと思います。
和田 敏克:
映像を、既存メディアで消費されてゆくパッケージではなく、鑑賞者が体験・思考する唯一無二の芸術として屹立させるべく創作活動を続ける牧野貴さんは、技術的なプロフェッショナルであると同時に、孤高の作家である。何より映像そのものの力を信じている。今回の『Echoed』では、映像が他の何物でもない、まさに映像として存在するために、通常では信じられないほどの重ね合わせを行っているということだ。速度や時間軸を微妙にずらしながら、無数に重ね合わせられた映像は、被写体の持つ意味を超え、鑑賞者の無意識や記憶の残滓に反響してゆく。牧野さんはそれを「残響効果」と呼ぶ。展示では、そのように制作された3つの4K映像が、巨大なスクリーン上で、さらにリアルタイムにひとつに重ね合わせられ、融けあい、永遠の変化を続けてゆく。音響要素も周波数の揃えられた音が反響し合ってゆくらしい。これはその空間でないと分からない唯一無二の映像体験となるだろう。その体験が、本当に待ち遠しい!
山田 哲平
タナカ カツキ:
私たちは普段、鼓動に意識を向けることありません。鼓動のことを無視して生活を楽しんでいます。鼓動と向き合うのは病院などで、できるだけ鼓動のことは考えないように生きてゆきたい。そんな鼓動を血管を想起させるような刺激的な色合いと動きで目の前に取り出されたとき、それはまぎれもない自分自身、生々しい人間のリズムです。自分のものでありながら、他人のものにも似ている。そんな作品のテーマはストレートで、とても原初的。個人的に大好物のテーマでした。作品をどこでどのように展示するかの局面で、さまざまなミラクルな出会いがあり、トントン拍子で展示や今後の展開が広がっていったのは、「そのテーマは間違ってないよ」という証のように感じました。展示空間、楽しみにしております。
土佐 尚子:
「多様性と普遍性」をテーマにした本企画の山田さんには、メディアアートの歴史と自分の作品に対する関係性や意味の深め方、そして作品の言語化の社会的意義についてアドバイスを行いました。山田さんは、それらを少しずつ取り入れたようで、ご作品に対する意識が変わって行き、レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」の黄金比を作品に取り入れています。それらのアドバイスの成果は、アート業界以外のデジタル聴診器のメーカーとも親交を深め、三井不動産の紹介や、ライフサイエンスビルの1階に作品を展示するという、大きな進歩を得ることが出来ました。今後は、東京、大阪でのライフサイエンスビルでの展示をきっかけに、多いにバイオ関係とメディアアートの融合の作品を作って人々を感動させてくれることを期待します。