生物学の知識や技術を援用した作品群を始めとし、科学的なアプローチで表現活動を行う石橋友也さんと、データ・サイエンティスト/エンジニアである新倉健人さん。共に広告会社に勤務し、石橋さんはウェブやテクノロジー関連の企画・制作、新倉さんはデータを用いたマーケティング業務に従事しています。今回採択された企画は、人間によってSNS上に日々生み出される「トレンドワード」(*1)を素材に、AI(人工知能)が詩を生成するという、広告やウェブというメディアの現在を意識した試みです。
アドバイザーを担当するのは、ソニー株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門テクノロジーアライアンス部コンテンツ開発課統括課長の戸村朝子氏と、アニメーション作家/東京造形大学准教授の和田敏克氏です。
*1 トレンドワード……ウェブ上で検索数や発話数が急上昇している今現在関心を集めている言葉のこと。
―最終面談は、今回の企画に協力される、アニメーション制作チームの吉田竜二さんと二口航平さんが同席されました。
2つのアニメーションで表す「喧騒」と「静謐」
―制作中のアニメーションをプロジェクションしながら、進捗状況を説明します。
石橋友也(以下、石橋):この2ヶ月は、アニメーションの開発と、インスタレーションの構成の検討をおこなってきました。作品のステートメントを書く中で、このプロジェクトにおける「トレンドワード」の重要性を改めて感じ、詩の生成の前段階であるトレンドワードの抽出過程も見せたいと考えました。そこで、これまでもお見せしてきた詩の生成アニメーションに加え、トレンドワードを抽出するアニメーションも制作し、2つを同期させることで一連の流れを表すことにしました。
トレンドワードの抽出アニメーションは、展示空間の壁面に大きくプロジェクションします。プロジェクションに内包されるかたちで、同じ壁面に3台のディスプレイを設置し、そこで詩の生成アニメーションを流します。
一連の流れをご説明すると、まずは詩の生成アニメーションはOFFの状態で、トレンドワード抽出アニメーションのみが始まります。元となる膨大なツイートを表す、さまざまなサイズの矩形が画面を漂う中、中央に大きく表示されるのが詩の素材となるトレンドワードです。その後3台のディスプレイもONになり、プロジェクションされているトレンドワードを用いた詩が生成されます。3台のディスプレイでは、同じトレンドワードを元に、それぞれ異なる詩が生成されます。複数の異なる詩を同時平行で生成する様子から、人間ではあり得ない詩の生成プロセスを感じてもらえればと考えました。
詩の生成中も、トレンドワードはプロジェクションされたままです。詩の生成が全て終了すると、プロジェクション側は切り替わりのモーションに入り、トレンドワードの周囲を漂っていた矩形が大きくなり画面を覆い隠します。以上の流れが繰り返されることになります。
アニメーションに加えプリンターも同期させ、生成された詩を出力する予定です。出力した詩は、別室の壁面に掲出しアーカイブします。2種類のアニメーションを用いることで、詩の生成の流れが直感的にわかるだけでなく、「ウェブ空間の喧騒」と「詩の静謐さ」という正反対の雰囲気の対比を感じてもらえたらと思っています。
新倉健人(以下、新倉):トレンドワードの抽出アニメーションは、詩の素材としてリアルタイムなトレンドワードを用いていることを伝えるためのアイコンであり、あくまでも背景です。そこに膨大に出てくるツイートの文字を読んでもらいたいわけではありません。
その上で、今悩んでいるのはトレンドワード抽出アニメーションの演出面です。トレンドワードとウェブ空間をアイコニックに見せたいのですが、配色などさまざまな要素に意味を持たせるべきか、単なる演出と割り切ってしまうのかなど、要素の見せ方を検討中です。意味を持たせるなら、同じ共起語(*1)を持っている言葉を同色でカラーリングするなどが選択肢として考えられるかと思います。
戸村朝子(以下、戸村):色が鑑賞者に与える印象は強いですから、そこは慎重に考えるべきだと思います。実際にそのアニメーションを見てどう感じるか、自分たちで見てみて、実験を重ねてください。配色、動きのリズムやテンポ、あとはフォントなども重要な要素です。
和田敏克(以下、和田):現状のトレンドワード抽出アニメーションでは、中央に表示されたワードがトレンドワードだということがわかりにくいように感じました。1つのワードのみから始まるのではなく、複数のワードから1つが選ばれるプロセスがあると、伝わりやすいと思います。
詩の生成アニメーションの方には元となるトレンドワードが表示されていませんが、こちらにもトレンドワードは表示したほうがいいのではないでしょうか。加えて、こちらのアニメーションでもやはりリズムやテンポがとても大事です。今見せていただいたものは、最初と最後の行が出てきた後、その間を繋ぐ数行が一度に出てきましたが、じっくり読んでもらえるよう、間も1行ずつ出るようにしたほうがいいかと思いました。
戸村:鑑賞者の視線を考えると、実際に作品に近づいて詩を読むときには、3つのディスプレイのうちのどれか1つしか見えないことになります。1つのディスプレイを見ながらでも、「別のディスプレイでは違う詩がつくられているようだ」と感じられる方法を考えたいですね。
和田:生成過程のタイミングを各ディスプレイで少しずらして、かつ音を要素として加えるのはどうでしょう。視覚情報以外でもその差異を感じられる工夫です。過度な演出にならない程度の音がいいとは思いますが。
石橋:ありがとうございます。実験を繰り返して、細部まで詰めていきたいと思います。
*1 あるキーワードを含むコンテンツ中に、一緒に頻出する単語のこと。
リアルタイム性をどう伝えるか
戸村:現状ではあまりリアルタイム性が伝わってこないなと感じました。インタラクティブにして、トレンドワードのセレクトを鑑賞者が行うというのは1つの方法だと思うのですが、その選択肢はやはりないのでしょうか。
新倉:システムとしては不可能ではないのですが、そこはやはり全自動にこだわりたいと考えています。人間が有象無象に吐き出した言葉を素材に、機械が勝手に生成する様子を見ることで、このシステム自体の存在感を鑑賞者に強く感じてもらいたいのです。
詩の素材となるトレンドワード自体がリアルタイムな話題の表出なので、リアルタイム性はそこからも感じてもらえると思います。ただ、話題性のあるわかりやすいワードが常にあるわけではないので、確かに一工夫必要かもしれません。
二口航平:単純ですが、時計などのわかりやすいアイコンを用いて、鑑賞者に時間を意識させるのはどうでしょうか。ツイートに日時の表記を加えるだけでも違うと思います。
和田:あるいは、プロジェクション映像にもっと空間的な広がりや奥行きが感じられるといいのではないでしょうか。文字の大小や色の濃淡で演出してみてはどうでしょう。
加えて、少し話題が逸れますが、使用するプロジェクターは、低解像度のものを用いてしまうと、演出として入っている細かなツイート文など、読まなくてもいいような部分が変に気になってしまうこともあるため、できるだけ高解像度のものを選ぶ方がいいでしょう。
いい子のAI、わるい子のAI
新倉:システム開発の進捗としては、まず中間面談の時点で採用を検討していたGoogleの検索ワードではなく、当初考えていたTwitterのトレンドワードのみを用いることに決めました。加えて前回アドバイスいただいた、整った詩と、ぎこちなくも魅力的な詩のハイブリッドを実現するため「いい子」と「わるい子」と称して、AIに2つの異なる設定を施すことにしました。よりきれいな文で詩をつくるAI(いい子)と、比較的ディスラプト(崩壊)された文で詩をつくるAI(わるい子)の2パターンを用意することで、生成される詩のバリエーションを豊かにします。
―これまでに生成した詩の一例を見せます。
和田:句読点の付き方には何か決まりがあるのでしょうか? 詩の途中に句読点があると、詩ではなく文章に見えてしまう可能性もあります。
新倉:機械学習の過程では句読点は邪魔になるので、排除しているのですが、確かにところどころに入っていますね。どう扱うか、これから決めていきます。
戸村:実作業の追い込みの時期こそ重点を見失わないよう、テーマやコンセプトに立ち返りながら慎重に作業するようにしてください。お二方ともフルタイムで仕事もしながら制作されているので、くれぐれも体調に気をつけて頑張ってください。
―成果プレゼンテーションに向けて、どのようなプロトタイプを展示するかを検討する予定です。