さまざまな物理現象を作品化してきたryo kishiさん。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門新人賞『ObOrO』、第21回エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品『dis:play(bias)』をはじめ、国内外で受賞・展示を行ってきました。今回採択されたプロジェクトでは、複数のカイトを高速で回転させて「抗い」を表現したキネティック・インスタレーションと、ドキュメント映像を制作します。

アドバイザー:磯部洋子(環境クリエイター/sPods Inc CEO/Spirete株式会社COO/Mistletoe株式会社プロデューサー)/タナカカツキ(マンガ家)

カイトの動力源

ryo kishi(以下、kishi):初回面談以降は、カイトに推進力を持たせることに取り組んでいました。動力付きの紙飛行機では、前に進む力はあっても、まったく浮きませんでした。トイドローンは、糸とつなげるとドローン内のセンサーが異常を感知して、必ず落ちてしまいます。プログラマブルドローン(プログラム可能なドローン)(10g)でも実験しましたが、望む動きにはなりませんでした。そこで、自分で組み立てとプログラミングをしたオリジナルのドローンを使ったところ、まだ制御は難しいものの、ダイナミックな動きは実現できました。ただ、実験で壊れてしまって再現できていないのです。今は、大きさや吊るし方の角度などの調整を試行錯誤しているところです。あと1ヶ月以内にこの課題をクリアして、次のフェーズに入りたいですね。
演出面は、ドローンによる規則的な動きでは抗っている感じが出ないので、何かに引っかかったり、障害物を突き抜けたりといった表現を、光の演出で補おうと考えています。ドローンの問題が解決したら、知り合いのアーティストに声をかけたいです。

磯部洋子(以下、磯部):例えば、本郷飛行機株式会社(http://www.hongo-aerospace.com/)は、海外でも活躍しているドローン・スタートアップです。アーティスト支援もされているので、協力してくださるかもしれません。どういうことをしたいかを伝えれば、現状の課題解決につながるアドバイスをしてくれるかもしれないです。

kishi:今回は動力としてドローンを使用するので、パーツや基盤をいじりながら独自の構造をつくろうとしています。カイトを飛ばせる場所についても引き続き検討しています。今は実家で実験をしていて、今の場所では高さ3mまでが限界なのです。

タナカカツキ(以下、タナカ):物理的な空間を確保するのは、なかなか難しいですよね。

磯部:またアルスエレクトロニカに作品を持っていくのですか。

kishi:そうですね。来年にでもアルスに持っていきたいです。前回アルスに参加した時は広い場所を用意してもらえたのですが、誰も来てもらえず、その上ずっと作品を直し続けて、展示が終わってしまいました。演出のある作品だとショータイムとして設定してもらえるので、そのレベルまで持っていってリベンジしたいです。

実験中のプログラマブルドローン

抗いの表現とは何か

磯部:技術に紐づく作品なので、今の段階ではどういった抗いの表現ができるか、まだみえないですね。

kishi:まだその段階ではないのですが、あと1ヶ月以内にどうにか技術面をクリアしないと、1月の最終面談に間に合わないですよね。

タナカ:刹那的な美しさというコンセプトが、動力の使用によって直感的には伝わりにくくなりましたよね。そこはどうしましょうか。

kishi:動力の導入によって安定感が出てきた分、動きをかなり細かく制御できるようになりました。ですので、上下にランダムに振るなどして、制御によって抗いの表現をつくることができないか考えています。

タナカ:それだと「抗い」という言葉は不適格になってしまいます。むしろ制御された動きが一瞬揺らいだときに、その「もがき」が美しさとして伝わるのではないでしょうか。また、カイトが回っている非日常感を、ライトや音楽で演出する空間のエンターテインメントショーにもなります。制作過程でコンセプトが変化してきた経過を見せるという方向性もあります。

kishi:制作の過程で狙いがずれていくことは、よくあります。初期のコンセプトに固執せず、制作の中でみえてきたものを汲んでテーマを決めていきたいですね。

タナカ:現場は、映像よりもっとヒリヒリする感じがあるのでしょうね。

kishi:PCとスマホの二段階制御で動かしているのですが、その通信が切れて、ストップを押しても止まらないこともありました。展示するときも何が起きるかわからないので、絶対に作品から離れられないのです。作品の表現や維持状態もギリギリなのが、自分の作家性でもあります。

磯部:作品の「危うさ」から、いつもギリギリを表現している人だということが伝わりますね。

タナカ:その「危うさ」や「もがき」を受け入れることが面白いし、励まされる部分でもありますね。

kishi:「抗い」=ジタバタするのは、一番生命力があってかっこいいと思っています。作品だけでなく自分が抗っている過程も含めて、受け入れてもらえるきっかけになればと考えています。

チームで活動するアーティスト戦略

磯部:初回面談で、音や光の演出で他の作家とコラボレーションしたいとおっしゃっていましたよね。

kishi:目星はつけています。レーザーや音の演出などを相談しながら一緒に決めて、2人の作品としたいです。アートコレクティブとして見せていく方が、今後の海外での活動もしやすくなります。

タナカ:レーザーと組み合わせるとなると、カイトの質感も変わってきますよね。

kishi:現在はゴミ袋のビニール、極めて薄い布地のスーパーオーガンジーとビニールの組み合わせ、オーロラフィルムの3種類まで絞っています。光の反射や軽さ、薄さ、丈夫さを考慮して選んでいます。あまり薄いと破れますし、支柱のカーボンも細くて折れやすく、動かしていると徐々に壊れていくのです。インスタレーションというよりパフォーマンス作品ですね。

磯部:今、この時しか見られない体験とするのもいいですよね。ダンサーを入れると抗いの表現が伝わりやすくなるかもしれません。

kishi:コラボレーションする場合、通常なら半年前から一緒に進めるべきですが、3ヶ月前には声をかけたいです。そのためにはカイトを完成させないと……。

磯部:昨年採択の人は、実施期間が4月になった人もいました。3月までに完成しなくても良いのですが、遅くても来年12月までには完成させる必要があります。

kishi:3月には演出の方向性を決めて後は詰めるだけという状態まで持っていき、映像だけ4月以降に回そうかとも考えています。仕事の合間を縫ってやっているので、年末に一気に進めたいです。

磯部:今回のプロジェクトの後、何かビジョンはありますか。

kishi:今回をきっかけに、何人かでの制作をやりたいです。最終的には、自分のアートコレクティブ・チームをつくりたいです。

磯部:メディアアートのような技術的な表現をすると、かなりお金がかかります。副業をしながら作家活動を継続していく活動スタイルを確立していく方が、日本のテクノロジー・アートの分野が広がって産業となっていくと思います。本事業には、そうした社会実装を応援する意図もあります。副業も解禁になりダブルキャリアで働く人も増えてきていますので、コレクティブやチームとして、どんどん活動していってほしいですね。

kishi:作家として独立しても、作家活動以外の仕事が忙しくなって作品をつくれなくなってしまう人も多くいます。日本はまだアーティスト一本では食べていくのは難しいので、今は10年単位でその土壌をつくっていく過程なのでしょうね。

―次回の面談に向けて、技術面の課題を克服していく予定です。