令和5年度のクリエイター育成支援事業の創作支援プログラムでは、初の試みとして中間面談を合同で実施。ほかのクリエイターの進捗を聞くことで自身の創作の刺激を得るとともに、二人の担当アドバイザー以外からの指南を得る機会にもなりました。面談当日は二つの部屋に分かれて同時進行で面談が行われ、終了後には懇親会が開かれ部屋同士の交流の場ももたれました。本レポートでは発表グループ①の様子をレポートします。
合同中間面談 発表グループ①
日時:2023年11月24日(金)
時間:13:00~17:30
会場:神田スクエア「ConferenceB」
アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/戸村朝子(ソニーグループ株式会社コーポレートテクノロジー戦略部門コンテンツ技術&アライアンスグループ統括部長)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)/モンノカヅエ(映像作家)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)
※川田祐太郎さんの面談は2023年12月11日(月)に別途実施
アドバイザー:さやわか(批評家/マンガ原作者)/原久子(大阪電気通信大学総合情報学部教授)/森田菜絵(企画・プロデューサー)/山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手/秋田公立美術大学准教授)
ネメスリヨ『ONCE』
まず提示したのは作品のテストピースです。実写のストップモーション・アニメーションがスクロール操作によって動くさまや、その独特の世界観に期待が高まります。操作によってカメラアングルとデュレーション(速度)に変化を生じさせ、作品世界の時間軸に鑑賞者が介入するような体験にしたいとネメスリヨさん。一方で「アドバイスいただいた、一つのモニターへのインタラクションが複数のモニターに派生する形は取り入れたいのですが、そうするとほかの鑑賞者が別のモニターで同時に操作した場合にバグが起こってしまう」と懸念を漏らしました。
バグへの対処についてアドバイザーの原さんは「同時鑑賞を一人に限るなど、複数人での観賞を想定しなくていいようにするのも一つの手です。鑑賞にそういったルールや制限を設けている作品も昨今珍しくありません」と提案。またモンノさんは、「テストピースを拝見して、小瀬村真美さんの作品を思い出しました。彼女も映像インスタレーションや写真を手法にしているアーティストで、時間をテーマにしていいます。作品を見てみると参考になるかもしれません」と、共通点を持つ作家を紹介しました。
ニヘイサリナ『Five Orphans』
完成した絵コンテを素材にした、数秒のラフを再生するニヘイサリナさん。部分的にほぼ仕上がっているシーンもあり、一見順調に見えますが、「もともとは北海道でアシスタントを探すつもりでしたが、いい人材が見つけられず東京での作業に切り替えました。自分で制作を進めながら、アシスタントに指示を出すための準備に時間を費やしています」と言います。制作過程に他者を入れるのが初めてということもあり、10月末から入ってもらう予定だったアシスタントアニメーターとの分担作業が難航している様子です。
アドバイザー陣の第一声は「動く絵が見られて嬉しい!」。やはり絵が動くさまを見るのは、アニメーション作品の何よりの醍醐味です。アドバイザーの戸村さんは、「他者と内容を共有しながら作品を形にすることは、クリエイターはどこかで必ず通らなければならない道だと思います。大抵1回目は大変なものです。今回だけではなくより長いスパンで捉えて、自分のチームやコミュニティを育むつもりで取り組まれるといいと思いますよ」と、チームづくりの心構えを説きました。モンノさんからは「私も制作進行できるので、何かあったらご相談を」との心強い言葉も。
坂本洋一+坂本友湖『伝統工芸和紙製作におけるテクノロジーの応用』
徳島県の阿波和紙工房「アワガミファクトリー」でのリサーチについて報告した坂本洋一さん。制作工程やテクスチャー、洋紙と和紙の違い、また同地の伝統工芸である藍染についてなど、和紙や土地についての見識が深まった様子です。「制作過程にある和紙繊維を攪拌させた水は、雫のように滴らせると、乾くとその形の和紙ができ、さらに濡らすと元の状態に戻ります。その様が面白く、液体の状態と乾いた和紙の状態とを循環する仕組みをインスタレーションとして見せられないかと考えました」と坂本友湖さん。ほかにも、漉(す)く途中で基盤を和紙に封入するなど、さまざまなアイデアが提示されました。
アドバイザーの山川さんは、固形物のように捉えていた和紙がメタモルフォーゼし変化する様子に惹かれたといいます。「プロダクトに落とし込むことを前提とした企画なので、最終的には何かしらの形になるのだと思いますが、最終的なアウトプットからも、そういった和紙の実体のなさや流動性が感じられると嬉しいですね」と山川さん。ほかのアドバイザーからも、坂本さんたちらしい技術的なアプローチによって、和紙の固定概念を揺るがすようなプロジェクトにしてほしいと、期待の声が寄せられました。
高橋祐亮『trash for you 「VR と現実空間の相互作用から生まれる多層的な想像」』
初回面談を受け、テーマやコンセプトの再考に時間を充てたという高橋祐亮さん。「10歩下がって1歩進んだ」と自己評価は控え目ながらも、再考した作品のデモ映像も用意できています。「たくさんあった要素を削ぎ落とし、初期からあった「自宅」という要素を掘り下げました。人の家に行くのが苦手なことなどから、自分の家と他者の家との違いや、さらには個々の日常のズレに言及したいと考えました」と高橋さん。そこで行き着いたのは、自宅での自分の日常をゲーム化し、それをプレイする様子をゲーム実況するというメタ構造を持つ映像作品です。
アドバイザー陣からは「いい方向に軌道修正された」「やり直すのは大変。よく決断された」という評価が。さやわかさんは「当初の企画より断然いい。初回面談を受けてしっかり考えた結果が現れていると思います。演者として自分の家をプレイするというゲーム実況の要素を取り入れたのも非常に面白い」とした上で、とはいえ、作品制作から抜け出ることができないというループ状態の自分をそこに重ねるのはいささか個人的過ぎるという懸念も示しました。原さんは「ゲーム実況動画というとパターン化されているものという印象もある。意外性や予想外の展開などもあるといい」とさらなる期待を示しました。
副島しのぶ『彼女の話をしよう』
外部のアシスタントにセットや人形造形のサポートを依頼しているという副島しのぶさん。作業は比較的順調ながら、ニヘイさんと同じように他者にイメージを共有する難しさも感じている様子です。また、「リサーチを重視すると、その内容を伝えるために作品をつくっているような気がしてしまう。そうではなく、自分でも咀嚼しきれないものを体感させたい」と、リサーチとの距離感については初回面談以降も悩みながら進めているとのこと。加えて、展示の形式についてはホワイトキューブ以外にも、例えば古民家や、瀬戸内海の女木島にある「鬼ヶ島洞窟」などサイトスペシフィックな空間での展示も考えているといいます。
アドバイザーの山川さんは、「そもそも展示にする必要があるのかという問いもある」と前置きした上で、展示空間の考え方について、「サイトスペシフィックなインスタレーションというのは、場所ありきでつくられるものだと思うので、順番が違うように思います。後から場所を当てはめても、場所が持つ意味が作品に入ってきてしまう」と、再考を促しました。また、リサーチとの距離感については各アドバイザーから「いったん捨てて、残るものだけ拾う」「いいとこ取りでよい」「自分の手を通れば自分の作品になる」「自分の立ち位置を定めれば迷わなくなる」「フィールドワークが大事」など、それぞれの言葉でアドバイスがありました。
水尻自子『短編アニメーション『普通の生活 Ordinary Life』の展示版を作る』
自身にとってはじめての試みとして、作品を空間にも展開しようとしている水尻自子さん。四つのモニターを同壁面に配置し内容を連動させることを想定しているものの、「モニターの数が増えただけで、こんなにも難しいのかと正直困惑しています。視線の誘導やテンポなど、よく考えて構成したい」と、考え方や進め方に悩んでいる様子。また、初回面談でトピックの一つとなった「ビニール袋」については、現代においてはマイナスイメージも伴うモチーフながら、やはり美を象徴するモチーフとして登場させる方向で考えているといいます。
アドバイザーからは展示についてさまざまな意見が出されました。原さんは「特色ある空間での展示。だからこそインスタレーションを考えたのだと思いますが、より立体的に、モニターが鑑賞者を取り囲むなど、ほかにもやりようがあるように思います」と、展示についての模索を促します。モンノさんは「スペイン現地のスタッフにどう作品を運営してもらうのか、作品の扱い方を事前に打ち合わせをする必要があるとおもいます。場合によってはタイマー設定やリモートでオン/オフができるような準備もしておく方が良いかと思います」と、海外での展示における留意点を示しました。
花形槙『A Garden of Prosthesis』
オンラインでの参加となった花形槙さん。先日「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」に出展し、下北山エリアの森で行った、森の木々と身体を接木するパフォーマンスの記録を紹介し、今回のプロジェクトを理解するヒントとしました。その上で、2月に予定している本プロジェクトのパフォーマンスについて進捗を報告。インスタレーションのインストールのようなパフォーマンス作品になる予定で、「庭師」と呼ばれる役割の人物が、実体のある物やバーチャルオブジェクトなどさまざまなモチーフをキメラのように接木するといいます。時おり途切れるネットワークの間で断片的に話す花形さんもまた、今回のパフォーマンス作品をパフォーマティブに説明しているかのようです。
アドバイザー陣は作品の醸すカオティックな予測不能感に期待を示しつつも、共通したコメントとしては、鑑賞者が「わけがわからない」まま終わらないような工夫を促す言葉です。さやわかさんは「パフォーマンスが最終的にどのような局面に至って終わるのか、それを想定しておくだけでも違う。アンコントローラブルになってしまわないよう、大筋はあるといいと思います」と、大まかな筋道を立てることを勧めました。また、「庭は宇宙の縮図、というお話がありましたが、宇宙には庭師はいませんよね? であれば庭師は神のような存在なのか? など、まだ掘り下げられる余地があります」との指摘も。
川田祐太郎『Formation and Perceptualization of “Kairosymbiosis”: Human-Paramecium Interplay』
ミドリゾウリムシの安定的な培養環境のつくり方は概ね見えてきたと川田祐太郎さん。また「先日参加した実習でライトシート顕微鏡という装置を知りました。本来は3Dスキャンに用いられるものですが、この仕組みを使えば、低コストかつ、ミドリゾウリムシの体内時計に影響を及ぼすことなく動きを検知できるのではないかと考えています」と、初回面談から着実に前に進んでいる様子です。ドキュメントにはまだ手をつけられていないものの、「ミドリゾウリムシよりも装置の寿命が先に来てしまう場合や、装置ごとミドリゾウリムシを手放したくなることもあるかもしれない。さまざまな可能性を想定してテキストにまとめておく必要がある」と、その重要性は感じていると話しました。
原さんは「手元の装置を覗き込んで、映像ではなく実際の生物の動きを見ることができる。その個人的なインタラクションが重要な一方で、装置を持っていない人がこのプロジェクトをどう捉え、楽しむことができるか。例えばこの事業の成果発表の際には、どのような見せ方が効果的でしょうか」と、プロジェクトのプレゼンテーションの仕方について検討を促します。また森田さんからは、プロジェクトがサイエンティフィックな研究的側面が強いものなのなのか、あるいはアーティスティックなメッセージ性を持つものなのかを問う質問が。いずれの問いも、川田さんがこのプロジェクトを通して見る人に何をもたらしたいかを掘り下げることで、答えが見えてきそうです。
当日の様子
ダイジェスト映像はこちらからご覧ください。