本作は、CultureHouse(カルチャーハウス=培養荘)と呼ばれるモダニズム建築のような住宅兼研究施設を舞台とした育成・アドベンチャーゲーム。プレイヤーは、この家の持ち主である失踪中の科学者の意思を継ぎ、謎めいた生物の培養をしながら、その背後に隠された謎をひもといていきます。採択されてから登場人物の声を入れることを目標に、これまで動いてきた作者の渡部恭己さん。どんな声がよいか、誰に依頼するかを考え、いよいよ音声収録に望みます。最終面談では、改めて本作で目指したいことが語られ、渡部さんがもつ問題意識を起点に「芸術としてのゲーム」といったテーマにまで話題が及びました。
アドバイザー:西川美穂子(東京都現代美術館学芸員)/米光一成(ゲーム作家)
最終面談:2025年1月17日(金)
行間を読みながら、自身を投影できるゲーム
声優が決まり、シナリオ執筆中
これまでの面談でアドバイスをもらい、プロの声優に依頼することを決めた渡部さん。業界大手の声優プロダクションに依頼して収録の準備を進めています。まず声を入れたいのは、進行役の眼鏡をかけた女性キャラクターと、ガスマスクを付けた謎の少女。依頼先の声優プロダクションに所属する全ての声優のサンプルボイスを繰り返し聴き、そのなかから登場人物のイメージに最も合った二人の声優さんにお願いすることにしました。

CultureHouseの家主である科学者役は長く日本に住んでいる人なら誰でも声を聴いたことがあるベテラン声優にお願いしたいと考えているものの、予算の関係もあり次の課題に持ち越すことに。まずは10日後に控えた収録を優先してシナリオを準備中です。音声収録を想定してシナリオを考えることで、役割が近い2人のキャラクターを1人に統一するなど、元のストーリー構想を整理しながら進めています。そのなかには声のトーンの方向性も記載。外国映画の吹き替えや舞台の朗読劇といったイメージを書き込んでいます。「具体的な作品を挙げたほうが伝わりやすいかもしれない」とアドバイザーの米光一成さん。収録当日は、スタジオにノートPCを持ち込んで出演する声優さんにもゲームを見てもらう予定です。

2月の成果発表イベントでは「ゲームのイベントではできないことをやってみたい」と渡部さん。ゲームを体験する環境も『CultureHouse』の世界観に近づけます。ノスタルジックな雰囲気を出すために高精細な液晶モニターではなくプロジェクタを使用し、またゲーム内の建物にも置かれているミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアに座ってプレイできるようにすることで世界観を演出する予定です。
商業性と芸術性は両立できないか?
さらに、ゲーム制作に関心のある多くの来場者を見込み、トークイベントの企画を提案(*1)しました。「自分がつくるゲームが芸術かどうか迷いのあるクリエイターに、この支援事業を知ってほしい」という思いがあるそうです。20年以上、ゲームメーカーで働いていた渡部さん。メーカーではテーマや表現を深く掘り下げることよりも、大量に売れる商品としてCMや口コミで伝りやすい魅力が優先されているため「ゲームはもっと作品性を重視してもいいのではないか」という課題意識をもちます。「スタンリー・キューブリック監督の映画のように多くの映画館で上映されながらも芸術性の高い作品もある。ゲームも、小説や映画、音楽、漫画といった先行するメディアと同じように商業性を保ちながら、芸術性を高めた作品を目指せるのでは」と話します。

商品として売るためには不本意な設定が求められることもあり「雑誌で紹介してもらうために、主人公に名前を冠したこともあった」という米光さんの経験談から、渡部さんも「今回の作品は主人公(プレイヤー)を『透明』な存在にしたい」と語ります。主人公の外見や人物像は具体的に描かれておらず音声もありません。主人公が出会う登場人物も、逆光で表情をわかりにくくしたり、ガスマスクをつけたりすることでキャラクター性をあえてわかりにくくする演出も。「ゲームも行間を読む表現があっていい。受け手が想像する余地があることが大事だと思っている」ため、主人公と他の登場人物との関係性も敵味方やのように単純な定義はせず、プレイヤーの想像力にまかされています。

主人公の透明性により、想像力を掻き立てるゲームに
プレイヤーにはセリフがなく選択肢のコマンドのみでゲームが進む設定について「プレイヤーが『そうありたい』と描く姿を主人公に投影してほしい」という渡部さんに「このゲーム空間にいることで、すでに『そうありたい』と描ける選択肢は限られる。その矛盾をどう考えるか」と米光さんは提示しました。難しい問いかけの一方で「本来、ゲームはプレイヤーに想像力を与えられるメディアのはず。インタラクションなので、登場人物との付き合い方を自分でつくっていける」と賛同します。

受け手の創造性にゆだねるという点について「美術家が作品制作で目指すことと同じだと感じる」とアドバイザーの西川美穂子さん。「登場人物の声を探す際、その背景にあったのは主人公の透明性だったことを理解できた。こうした制作意図が、成果発表イベントでも伝わるといい」と期待を込めてアドバイスしました。
TO BE CONTINUED…
成果発表イベントの準備と並行して、約12時間を予定する音声収録を行いゲームに組み込む
*1
ラウンドテーブル「個人ゲーム制作の未来 ― 発表・資金・支援の新たな可能性」
日時:2025年2月15日(土)13:00~16:00
セッション1:13:00~14:00/セッション2:14:30~15:30
セッション1:インディゲーム制作の課題とケーススタディ
セッション2:アートが向き合うゲーム制作へのチャレンジ
成果発表イベント「ENCOUNTERS」成果プレゼンテーション展 関連イベント スケジュール一覧 | 文化庁メディア芸術クリエイター育成事業