山中千尋さんは生成AIを使って、その匿名的かつ集合的な記憶と自らの描画を組み合わせたアニメーションに取り組んでいます。課題であるAIとの協働には、どのような共存の形があり得るのか。日々の制作で行われた実験が、この最終面談で報告されました。ブラッシュアップされた作品を見て、アドバイザーのフィードバックは自ずと展示やステートメントといったプレゼンテーションに関する助言が多くなります。鑑賞者の先入観に邪魔されず作品を提示するための注意点などをめぐってやり取りが行われました。

アドバイザー:西川美穂子(東京都美術館学芸員)/若見ありさ(アニメーション作家/東京造形大学准教授)

最終面談:2026年1月15日(木)

AIと絵を描く実感

「自らの記憶の外側」に繋がるための手段として、生成AIを創造のパートナーに選んだ山中さん。AIが出力した画像をプリントアウトし、それに彩色するなどして制作を進めてきました。しかしその中で、生成されるイメージに対する美的な違和感や、そもそもAIを使うことに対するうしろめたさから、改めてどういう風景を描きたいのかを再考していたと語ります。

そんななか、12月に参加した映画祭のパフォーマンスに山中さんはヒントを得ます。そこでは、作家が紙に直接描画しながらアニメーションがプロジェクターで投影され、描いたものが映像と連動するものでした。

このパフォーマンスからインスピレーションを受け、山中さんはAIで動いている山の形の映像を生成し、それを下敷きに、リアルタイムで反応しながら絵を重ね、それをコマ撮りし、それをもとに再度映像を生成するという方法を試しました。こうしたアプローチによって、「今回の映像では、自身とAIがともに絵の具で山を描く行為を共有しているように感じられました。同じ目的に向かって絵を描いているという感覚を覚えました」と山中さんは手ごたえを口にします。

その一方で、これだと「絵画のメイキングにおさまってしまう気がした」という懸念も。そういった課題を乗り越えるために、より対象に近い位置からのカットでより抽象度を上げたり、元になるイメージを自身の絵にして、それに対しプロンプトを打ち込み、具象的な再現度のAI生成を行うなど複数の実験を行ったことが報告されました。

初回面談で話題になった技術的サポートについても、協力者が見つかったことも教えてくれた山中さん。「AIと私という互いの意図の重なり合いの結果、ひとつの風景が形になることで、AIが補助的な役割から脱して、共創相手としての関係が成り立っていくかもしれない」と今後の展望を語ります。

一連の報告を受けアドバイザーの若見ありささんは「初回の面談に見せてもらったものと全然違う。紙の質感も生かされていて、格段に見応えが増していると思います。AIと山中さんの描画が交じり合っている」と評価しました。

描写の試行錯誤を重ねた

展示をどうするか

続いて成果発表イベントでの展示について、現状のプランや懸念について山中さんは話します。「先ほどお話したパフォーマンスが良いなと思ったので、成果発表イベントでもキャンバスかパネルに映像を投影して、展示台では制作現場を再現したいと考えています。制作で使用しているプロジェクターやカメラを設置したり、プロセス自体を見せたいというのが今考えているプランです。実際に描いた絵も展示して、AIの映像と合わさっていることを分かりやすくすることも検討していますが、それについてはまだ迷っています」。また、今後の展開としてアニメーション作品としての発表だけではなく、展示も行う意向であることが話されました。

これを受け若見さんは展示で作品の面白さを伝えながら開かれた作品にするため、ワークショップをして他の人に描いてもらうのはどうかと提案しました。実際の制作工程を知ってもらうと、興味を持つ人もいるのではないかと述べます。アドバイザーの西川美穂子さんもそれに賛同し、ギャラリーも含め展示という形式でできることの可能性をアドバイスしました。

展示のプラン

ステートメントは主張ではない

面談の後半では、ステートメントをどう提示すればいいのか自信がないという山中さんの悩みも打ち明けられました。

それに対して西川さんは、今回のプロジェクト名である『永遠に呼吸する風景 — アニメーションによる、今この一瞬にある天国 —』を例に応答します。「正直に言うと、天国という言葉は抽象性が高すぎると思います。それぞれの人が勝手なイメージを持ちやすい言葉でもあるんですね。その結果、アニメーションを見て感じてもらわなきゃいけないこととの乖離が起きてしまう可能性があります」。

続けてステートメントについても西川さんは助言します。「作者はもちろんそうだと思うのですが、キュレーターである私もよく観客から作品の意図を聞かれます。ただ美術は結果として主張が生まれることはあるけど、必ずしも主張ありきで生まれるわけではありません。今日お話してくれたご自分の関心や課題、問題意識をまず言葉にしてみるのはどうでしょうか」。

山中さんはこれまでステートメントなどの作品の説明について、「少し固く考えてしまっていたかもしれない」と西川さんに応答します。作品が完成に近づいているからこそ交わされる、率直な意見交換が印象的な最終面談でした。

左から、若見さん、西川さん